本研究においては、「近世日英書物文化には偶発的類似が多く存在する」と仮定し、そのことを実証的に研究し、今後の書物史研究の発展の可能性を開拓することを目的とした。コロナウイルス感染拡大の影響を受け、しばらくの間は国内外での調査研究が計画(あるいは希望していた)通りに実施できなかった。しかし、研究期間延長を許され、様々な文献資料を入手することができたのは大きな収穫であった。それらを精査することに膨大な時間を費やす中で、新たなテーマを発見することにも結び付いた。 具体的な研究実績としては、①近世英国と日本の書物の出版と流通に関しての検討を進めるため、ロンドンの書籍商リチャード・チズウェルと京都の八文字屋八左衛門をはじめとする数名を選定し、そのビジネスの規模や扱うジャンル、顧客獲得方法、出版統制の影響といった点に注目して比較検討を試み、成果をまとめた論考を執筆している。②近世という時代が東西で作り上げた現象を書物を通して証明していくため、日英両国において17世紀に普及した若い男女が知識教養を身に付けられるような作法書の比較研究を行った。③17世紀英国の庶民が読書をした目的・動機を考察する中で、プリズン文学というジャンルに注目し、論考をまとめて発表した。プリズン文学は日本にも存在するものであるため、比較研究を実施するレベルまで今後掘り下げていく。④好古学/国学に関連する有職故実の研究や、街道絵図等に新たな題材を見出し、考察を進め、オンラインではあるが海外研究者と意見交換をする場を設けた。⑤最終年度には研究協力者をイギリスから招聘し、おもに17世紀に出版された日英の書物に関しての比較研究を進めることができた。研究協力者を講師に迎えて開催した近世英国書物を扱う講演会は、研究者だけでなく大学生や外部一般にも公開し、活発な質疑も行われることとなり、研究成果を社会に還元することができた。
|