研究課題/領域番号 |
19K21632
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研究機関 | 札幌大学 |
研究代表者 |
佐藤 美希 札幌大学, 地域共創学群, 教授 (50507209)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | トランスレーション・スタディーズ / 翻訳学 / 翻訳研究 / 白話文学受容 / 戯作 / 翻訳 / 翻案 |
研究実績の概要 |
研究2年目となる当該年度は、近世の中国白話文学受容についての先行研究の精査を継続し、白話文学受容テクストについてトランスレーション・スタディーズ(翻訳学/翻訳研究)の理論から具体的に再検討する作業に着手した。さらに、近世に出版された翻訳・翻案作品についての最新資料を入手し、近世と明治をつなぐ考察対象としてさらに議論を深める作品であることも確認できた。また、江戸中期の白話文学受容から後期の戯作までの作品創作の流れは、江戸後期の読本文化の確立に照らして近世文学の意義として説明されてきたが、それらが白話文学の翻訳/翻案であることが自明視されていながら、例えば翻訳/翻案の具体的な区別の基準は曖昧であり、その区別が必要なのかどうかという疑問がさらに明らかになった。この区別については、明治以降の近代における翻訳文学のみを考察していた時には着目できていなかった点であり、近世と近代をつなぐ意義としても大きいと考えている。 このように、近世の白話文学受容の様相をまとめる作業を通じ、翻訳と翻案の境界線をどのように把握するかに関して新たに気づくことが多く、近世文学と明治初期英文学翻訳の研究とを接合するためには、文学研究の視座に加えてトランスレーション・スタディーズの理論や概念によって新たな考察を付与できる具体性が明確になっている。 当該年度は、2度の学会発表を予定していたが、コロナの影響で発表辞退と学会延期を余儀なくされた。その分、そこで発表する予定だった内容を精査した。それを元に、江戸中期の白話文学受容の先行研究をトランスレーション・スタディーズの主要理論から再検討を加えて考察した論文を当該年度末にかけて執筆し、2021年度に入ってから投稿し、5月現在査読中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当該年度はコロナ禍の影響で予定していた2度の学会発表ができなくなり、本研究の中間報告ができず、それへのフィードバックも得ることができなかった。加えて、コロナ対応による大学のリモート授業の準備や学生へのフォローアップなど、1年間にわたり研究活動の時間を削って対応せざるを得なかったため、予定した通りの研究時間を本研究に割くことが困難だった。 以上の理由から、江戸末期の戯作文学についてトランスレーション・スタディーズからの再検討に着手できていない。また、学会発表も2021年度には1回しか予定できておらず、失ったフィードバックを得る機会も取り戻せていない。そのため研究の進捗が遅れていると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は9月に予定されている7th International Association for Translation and Intercultural Studies (IATIS) Conferenceに、発表タイトル’Reconceptualising “Translation”/ “Rewriting”: examples from the early-modern Japan’が採択されている。それに向けて、江戸後期の戯作文学をトランスレーション・スタディーズの理論および概念を用いた再検討に早急に着手する。この9月の学会発表でのフィードバックを参考にして論文執筆を開始したいが、今後のコロナの状況も見通せず、想定通りに研究を遂行できるかどうか懸念が残る。可能であれば研究期間の1年延長の申請も考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度はコロナ禍の影響で予定していた2度の学会発表ができなくなり、予定していた旅費の支出がすべてなくなった。研究の進捗が遅れていることに伴い、購入を想定していた書籍もまだ未購入である。 2021年度には、学会発表もリモートが予定されているが、対面実施の学会・研究会があれば、そのための参加旅費として支出予定である。また、遅れている論文執筆や発表申し込みなどを今年度予定しているため、英文校閲や書籍の購入には、当初の今年度予定額以上の支出が見込まれるため、そうした支出に当てる予定である。
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