最終年度である2022年度は、これまでの研究をまとめ、その成果として国際学会での発表と論文の執筆・発表を行った。特に近世の白話文学受容のありかたに関して、現代の「翻訳」「翻案」という概念から考察されてきたことについて前年度から継続して再検討し、考察を深めた。これらの概念は明治中期以降から現代の研究によって確立されたもので、近世や明治初期の外国文学受容の様相を必ずしも正確には記述できていないことを、’The Conceptualisation of Hon’an (Adaptation) in Edo and Meiji Japan' (『通訳翻訳研究』第22号、2023、17-29.)の中で詳細に記述し、明らかにした。この論文では、明治中期にいわゆる「翻訳」「翻案」という現在使われている概念が確立した背景には、西洋文学受容が盛んに行われる中で形成された翻訳規範と、近世戯作文学の伝統から写実を重視する近代小説への移行、さらに言文一致運動も含めた明治20年頃の日本の文学状況の重要な変化があり、それらが外国文学受容観を大きく変容させたことを考察した。これにより、翻訳学(Translation Studies)の観点から近世から近代への外国文学受容の様相を検討し、時代や分野別に細分化される傾向がある文学研究を〈翻訳〉という切り口で横断的に分析することができたと考えている。 本研究は、近世と近代の翻訳受容の連続性/非連続性を把捉することを目的としており、その中で考察したいわゆる「翻訳」「翻案」という概念に当てはまらない外国文学受容のあり方が、現在の翻訳観や受容の理解にも繋がり得る。この点については、「2000年代以降の文学の<翻訳>概念」(『文化と言語』第87号(『札幌大学研究紀要』第3号)、2022、125ー153.)において考察した。
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