研究課題
挑戦的研究(萌芽)
本研究では、近世白話小説受容が原文に忠実な受容から翻案的なあり方に変化した様相を、翻訳学の理論である多元システム論を用いて、当時の散文文学ジャンルとの関係から把握し直した。さらに、「翻訳」「翻案」の概念が近世から近代初期でその意味が異なる点を論じ、その背景には、西洋文学受容が盛んに行われる中で形成された翻訳規範、近世戯作文学の伝統から写実を重視する近代小説への移行、さらに言文一致運動も含めた明治20年頃の日本の文学状況の重要な変化が関連したことを明らかにした。
翻訳学、比較文学
本研究課題を通じて、時代や分野別に細分化される傾向がある文学研究を翻訳学の観点から近世の外国文学受容を横断的に分析することができ、翻訳学が文学研究の一つの方法論として有効であることを示したと考えている。また、現在使われている「翻訳」「翻案」という概念が近世や近代初期とは異なっている点を明らかにしたことによって、いわゆる「翻訳」を定義し直す必要性を認識できた。これは、特に2000年代以降多様化を示す外国文学受容のあり方を把握する契機になるものである。