本研究は2つの目的を持つ。第一の目的は外国語の学習において身につけた知識が母語に関するメタ言語能力の発達に正の影響を与えるか否かを探ることである。第二の目的は母語に関するメタ言語能力と外国語に関するメタ言語能力が共通の認知機構に根ざすものであるか否かを探ることである。外国語の知識が母語に関するメタ言語能力の発達に正の効果を与えることが実証できれば、認知科学的な意義だけでなく、外国語教育の意義とその在り方に重要な影響を与え、社会的インパクトが期待できる。さらに、メタ言語能力について新たな視点(母語と外国語に関するメタ言語能力の関連)から検討することによってブレークス ルーをもたらす可能性がある。 以下に、これまでの研究実績をまとめる。まず、母語の知識、外国語の知識、母語に関するメタ言語能力、外国語に関するメタ言語能力を関連させて捉えるための認知モデルを構築した。そのモデルの妥当性を検証するために必要なテストを作成した段階で、新型コロナ感染症の拡大により、学校を単位とした大規模な調査が行えなくなった。結果として、規模を縮小した調査を行い、外国語の学習において身につけた知識が母語に関するメタ言語能力の発達に正の影響を与える可能性があることが示唆された。この結果を判断すると、当初予定していた大規模テスト実施の必要性は高いと考えられるので、新型コロナ感染症の状況をみきわめた上、別途プロジェクトの一部として実施する予定でいる。 本研究は学校における英語教育、国語教育などにも重要な示唆を与え得るものであることから、小中高の教員グループとの定期的な会合を重ね、意見交換を行うことによって、本研究の成果の社会的意義を確実なものにする努力を重ねてきた。 本研究の成果の延長線上に位置づけられる、母語教育と外国語教育の一体化の可能性については今後の研究課題としたい。
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