研究課題
2021年度は過去2年間とは異なる種を用いて実験を行った。潮間帯のカサガイ類の代表種であるマツバガイを材料に、貝殻から抽出したDNAが正しい配列であるかをチェックするために、動物体の組織からミトコンドリアDNAの全長配列を決定した。次に、貝殻からのDNA抽出を、漂白剤による有機物除去の有無、EDTAによる酸処理の有無、プロテアーゼK処理の有無の組み合わせにより実験し、取得された塩基配列データを比較した。結果は、(1)漂白処理無しで抽出キットを用いる手法が塩基配列解読の成功率が最も高いが、解読された塩基配列に別種のものが含まれていた。(2)DNA抽出は、CTAB-フェノール-クロロフォルム法より抽出キット(DNeasy Blood & Tissue Kit)を用いた方が結果が良好であった。(3) 成功率は用いるプライマーによっても影響を受けていた。ユニバーサルプライマーを用いると付着生物、貝殻中の穿孔生物等のコンタミネーションが増えやすい。実験の結果から言えることは、貝殻からDNA抽出をすることはどのような種でも可能である。ただし、それが正しい配列であるかを検証する必要がある。特にユニバーサルプライマーを用いると様々な種の配列が増幅される可能性がある。そのため、動物体から抽出したDNAの配列と比較が重要であり、特定の種を調べる場合は種特異的なプライマーを用いる方がよい。問題点として、貝殻中にDNAが均一に存在しているか、局在しているかなど、存在形態が不明であり、なぜDNAが貝殻中に保存され得るのかという点について別途研究が必要である。
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