研究課題/領域番号 |
19K21647
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
樋口 和美 (水本和美) 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 講師 (80610295)
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研究分担者 |
一宮 八重 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 助手 (40832613)
田口 智子 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 研究員 (90755472)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 泥絵 / 渡辺紳一郎氏コレクション / プルシアンブルー / 蛍光X線分析 / トルコの近代化 / 江戸 / 都市 / 遠近法 |
研究実績の概要 |
H31年度の研究成果は4つである。(1)渡辺紳一郎氏コレクションのコレクション形成の調査(水本):泥絵の渡辺紳一郎氏コレクションの継承者(柴花江氏)より、資料を借用して調査を進めてきたが、2019年、継承者の逝去に伴い新たな所有者に許諾を得て研究を継続した。同コレクション形成は、泥絵の同時代における評価等の考察上、重視している。先の継承者からの聞き取り成果は今後まとめたい。 (2)小田野直武作品の観察調査(水本・一宮):渡辺紳一郎氏コレクションのうち、小田野直武作品「梅屋敷」(現・秋田市千秋美術館所蔵作品)に対して、肉眼観察とデジタルカメラ撮影、赤外線撮影、を使用した調査を敢行した。 (3)国際セッション「トルコと江戸」の開催(水本):イスタンブール工科大学准教授で、トルコ在住の研究者(ジラルデッリ青木美由紀氏)とともに、2019年11月に、東京芸術センターにて「トルコと江戸」を主催した。都市江戸の景観と形成史を、トルコの景観と比較した。都市の構造と歴史、文化、あるいは遠近法導入など、多岐にわたる内容であるが、好評を博した。イスタンブールとローマで同様の研究会開催の約束をして終えた。西洋・近代に対する両世界のユニークさを際立たせた。 (4)泥絵「上の坂」の分析(一宮・田口・水本):一宮・田口は、泥絵「上の坂」(上野坂、江戸時代)に対して、蛍光X線分析(XRF)とXRDF(蛍光X線分析・X線回折)を用い、色材の分析を実施した。江戸期の浮世絵に使われたプルシアンブルーなどの色材使用を確認し、この点は従来の指摘に準ずる。しかし、これが泥絵一般に言えるかは不明である。今後、分析数を増やし、泥絵の色材・技法・表現の実態を個別に明らかにした上、泥絵の定義の確立に向けて科学の立場からせまりたい。水本・一宮は、ウルトラマリンブルーも対象とした研究を進めており、泥絵の青色も掘り下げる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(3)やや遅れている 理由は2つある。 1つ目は、資料を借用していた所有者のご逝去である。これに伴い、資料の所蔵関係に変更が生じたので、その間は、資料を直接に動かしての研究がはばかられた。ただし、現在は、所有者の了解を得ることもでき、調査は良好な状態で継続が可能である。なお、資料については、今年度に購入を想定する。 2つ目は、2020年1月頃よりはじまった、新型コロナウイルスの影響である。これによって、実績報告(3)の「トルコと江戸」の内容をヨーロッパ(ローマとイスタンブール)で開催すること、さらに、パリとオランダにおいて、渡辺紳一郎氏コレクションの形成の足跡を追う、という水本の海外調査の計画に大幅な狂いが生じた。また、2020年3月に進めておきたかった、水本・一宮・田口による国内調査(秋田・長崎・関西)にも狂いが生じている。なお、3月以降では、大学構内に入れない状態が続いているため、機器類が使えず、分析調査・解析にも大幅な狂いが生じている。 2つ目については、ウイルスの影響ということもあり、海外情勢、国内における社会経済的な見地、また、共同研究の全員が教員であるため感染可能性のある行動を厳に慎みたく、現在は、見通しがたてづらい。文献調査など、可能な限りのことを実施するほかなく、情勢に応じて臨機応変に計画の見直し、練り直しを行っていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度成果を受けて、今年度について、主に5つの内容で実施予定である。 (1)コレクション・作品の調査(コレクション形成考察・資料整理・景観分析:担当は水本);①撮影は継続し、画像整理を並行させる。②データベース化作業を実施する。③1点ごとの作品調査の成果に報告の場を設ける。④R3年度までを視野に、美術史における泥絵の位置づけを行うため、美術史研究者との研究交流を深める。秋田市千秋美術館などでも調査を敢行したい。⑤渡辺紳一郎氏コレクションについては、コレクション形成について研究・考察を進める(パリ・オランダ調査と不可分)。 (2)作品調査(自然科学分析:一宮・田口):①渡辺紳一郎氏コレクションにおける非破壊調査を想定して購入資料で進めてきた分析について、コレクションに関する自然科学分析調査として実施の予定。②使用される色などの整理を行う。 (3)作品調査(保存性の検討)保存性を考える上で重要な紙について調査を進めたい。 (4)国内調査:予定した国内調査(秋田・長崎・関西)については、新型コロナの影響を受けて、上半期については見通しがたたない。下半期での実施を計画していく予定であるが、状況の好転がなければ、延期したい。なお、文献調査について先行して進めたい。 (5)国外調査:泥絵のコレクション形成や、景観認識・絵画技法についての調査として、H31年度の3月末に、海外調査・意見交換を予定した(※イスタンブル・ローマ・アムステルダム)が、新型コロナの影響を鑑みて中止した。R2年も、上半期は見送る必要があると想定する。下半期、今年度末から次年度の科研費継続期間中に、国内・国外の感染拡大状況をみながら、可否を判断したい。海外での泥絵の認識や、景観・技法面での研究は、可能な限りで進めるが、このまま海外での現地調査ができない情勢が続けば、この部分については、研究期間延長で実施することも視野に入れる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度(H31)については、①資料の所蔵関係(相続)の整理に伴い、一時的に借用資料についての調査がストップした。また、研究継続のため、資料の購入を進めていたが、新型コロナウイルスの影響で契約等ができなくなり、当該年度中に計画したものが購入できていない。なお、当初計画で、保存用の物品購入にあてるところの予算を、資料の購入費に振り替えることとする。②新型コロナウイルスの影響により、国外・国内ともに、3月に進める計画であった出張を断念したので、特に、大きな金額として、海外旅費の使用予定額が大きくずれを生じさせた。①については、計画としては遅れたが、順調に次年度で可能になる。②については、今年度についても、影響は大きく残る可能性は高い。
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