研究課題/領域番号 |
19K21660
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
秋山 祐樹 東京大学, 空間情報科学研究センター, 助教 (60600054)
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研究分担者 |
小川 芳樹 東京大学, 生産技術研究所, 特任助教 (70794296)
宮澤 聡 東京大学, 空間情報科学研究センター, 特任研究員 (70834274)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | ビッグデータ / モバイルデータ / ジオデモグラフィクス / ライフスタイル / 人流 / 地理空間情報 / 移動体データ / 携帯電話 |
研究実績の概要 |
今年度は既存のジオデモグラフィクス(以下「ジオデモ」)を用いたダイナミックジオデモの試作にむけて,まず携帯電話の移動履歴から取得された秘匿化処理を施された日本全国の人流ビッグデータを加工して,各ユーザの自宅,勤務地およびそれ以外の滞留点の特定を行った.本研究では株式会社Agoopの流動人口データを用いて,まず関東地方全域を対象にデータ作成を実施した.同処理を実現するために,既存研究も参考にしながら,まず15分ごとの経路補間を行った後に,DB-SCANと呼ばれるダイナミックデータのクラスタリング手法により,滞留点の抽出をユーザごとに行った.続いて,滞留時間の長い滞留点を自宅及び勤務地の候補地とし,原則として夜間に最も滞留時間が長くなる滞留点を自宅,日中最も滞留時間が長くなる滞留点を勤務地と推定した.さらに,これらの結果を国勢調査から得られる夜間人口および昼間人口と比較し,双方との相関が最もよく取れる状態になるように自宅と勤務地の最適配分を行うことで,各ユーザの自宅と勤務地の推定を行った. 以上の処理により,人流ビッグデータに含まれる各ユーザの自宅位置を推定することが可能となった.続いて,このデータと既存のジオデモであるChomonicx 4.0を結合することで各ユーザにライフスタイルの属性を与えた.ジオデモは町丁目単位でその町丁目の支配的なライフスタイルに関する属性を持っている.一方,人流ビッグデータからは各ユーザの自宅の推定位置が経度緯度というピンポイントな座標で与えられている.そこで,これらを空間結合することで,各ユーザにユーザの自宅位置に基づいたライフスタイルの属性を与えることが実現した. さらに,現在はこの結果を地域メッシュ単位で時空間方向に集計化し,その結果をクラスタリングすることでメッシュごとの時間別地域特性を推定するための計算環境を構築中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究提案時点で今年度実施を予定した項目と,それぞれの進捗状況は以下の通りである. 1)人流ビッグデータの解析による滞留点および自宅,勤務地の推定:「研究実績の概要」の通り,人流ビッグデータから滞留点を抽出するとともに,滞留点から自宅と勤務地を特定する技術が実現し,その信頼性も十分に高いことが確認された.すなわち,本項目は順調に進捗し,当初目標を達成できたと言える. 2)人流ビッグデータとジオデモグラフィクスの空間結合:「研究実績の概要」の通り,人流ビッグデータを構成する各ユーザの推定自宅位置に基づいて,各ユーザにジオデモグラフィクスが持つライフスタイルの属性を付与することが実現した.すなわち,本項目は順調に進捗し,当初目標を達成できたと言える. 3)ライフスタイル属性付き人流ビッグデータの時空間集計とメッシュごとの時間別地域特性の推定:当初計画では今年度の達成を予定していたが,研究代表者の今年度末での異動と年度末のコロナ禍の影響により,全体的に進捗が遅れており,現在も開発が続いている段階である.すなわち,本項目は当初計画よりもやや遅れている. 4)最終年度に実施する海外展開に向けた予備調査:当初計画では研究代表者がネットワークを持つタイ王国(バンコク)と大韓民国(ソウル)をターゲットに,該当する国の研究者にコンタクトをとるなどの準備に着手する予定であったが,コロナ禍の影響により,該当する国々の研究者が所属する研究機関の活動縮小および閉鎖等が発生した.そのため,該当する国の研究者には,未だ十分なコンタクトは取れていない状況である.すなわち,本項目は当初計画よりも遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
まずは当初計画で今年度実施する予定であった「現在までの進捗状況」の3)および4)を来年度の出来るだけ早い時期に達成する.ただし特に4)はコロナ禍の影響を大きく受けるため,今後の日本および各国のコロナ禍の状況を注視しながら,慎重に実施するタイミングを見計らっていく予定である. また,当初計画で来年度実施を予定している内容を可能な限り実施する.当初計画では来年度は既存統計(国勢調査,人口動態調査,経済センサス等)を用いた独自のジオデモ開発を行う予定である.具体的な手法としては,まず既存統計を収集し,既存統計の属性に基づいた地域のクラスタリングを行う.続いてスパースモデリングによって有意な説明変数を選択し,地域特性を決定することで,独自のジオデモの開発技術を確立する.また海外展開の対象地域を決定し,最終年度に向けた先方との調整を行う予定である.ただし海外展開については前述の通り,コロナ禍の影響により大きく左右されるものと予想される.
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次年度使用額が生じた理由 |
まず、当初は人流ビッグデータ計算用のハイスペックPCおよび、データ管理・蓄積用のハイスペックサーバの購入を予定していたが、今年度は「研究実績の概要」および「現在までの進捗状況」にも記述した通り、研究の進捗が当初計画よりも若干遅れたため、今年度に実施した内容の範囲であれば、研究代表者および研究分担者が既に保有する計算環境を活用することで、研究遂行が可能であった。また、コロナ禍の影響により、海外での予備調査(韓国およびタイを予定)が一切実施できず、それに関連する旅費も一切執行することが出来なかった。 以上の理由より、今年度使用額は当初予定よりも大幅に小さくなった。そのため、今年度実施できなかった内容を来年度以降に実施するために次年度使用額が発生した。次年度使用額は、今年度実施できなかった内容を来年度実施するために使用する予定である。ただし海外での予備調査については今後のコロナ禍の状況次第で、実施可能か否かを判断する。
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