研究課題/領域番号 |
19K21661
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
勝田 長貴 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (70377985)
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研究分担者 |
阿部 理 名古屋大学, 環境学研究科, 助教 (00293720)
森本 真紀 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (30377999)
中川 麻悠子 東京工業大学, 地球生命研究所, 特任助教 (20647664)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 火山 / 炭酸塩 / 河川水 / 源泉 / 安定同位体分析 |
研究実績の概要 |
陸域の淡水環境で生成される縞状炭酸塩堆積物(トゥファ)は、年輪を形成することから、高時間分解で過去の環境変動を復元できる記録媒体として考えられている。本研究では、活火山地帯で初めて発見された浅間火山トゥファ堆積場を対象とし、水とトゥファの安定同位体比(δ18O、δ13C、δ34S)分析を通じて、そこに記録されて環境指標の解明を目的としている。トゥファの堆積年代は、放射性同位体元素を用いることが一般的に困難であるため、トゥファから復元された環境指標記録と、樹木年輪のマスタークロノロジーとの比較から、新しい年代決定法の可能性を検討することも本計画の課題となる。本年度は、昨年度に引き続き、源泉及びトゥファ堆積場の水の安定同位体比分析を行い、トゥファ堆積場の水が源泉水の影響を受けている可能性を確認した。このうち、H2O-δ18Oは年間を通じてほぼ一定、DIC-δ13CとSO42--δ34Sは季節変動していることが明らかとなってきた。一方、本年度からは、河床から採取した現生トゥファと、河岸段丘涯から得た古トゥファの安定同位体比の高分解能解析を開始した。トゥファ方解石δ13Cとδ18Oについては、マイクロドリルを用いて0.1 mm幅(数カ月単位)で分析試料を採取し、安定同位体比質量分析計で分析を行える手順を確立した。トゥファ方解石δ34Sについては、塩酸により方解石から硫黄を抽出し、塩化バリウムで硫酸バリウムに固定して分析する方法を確立した。そして、1.0 mm幅で分取した試料を用いて、現生トゥファの15年分の記録を復元し、河川水のSO42--δ34Sが数年単位で変動してきたことが明らかとなってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は前年度に引き続き、浅間火山の濁川源泉から下流4 kmの範囲に設置した7つの観測定点において、採水及び水質観測、流量測定、水の安定同位体比分析(H2O-δ18O、DIC-δ13C、SO42--δ34S)を実施した。観測は、8月、10月、12月、2月に行われた。4月と6月の観測については、新型コロナウイルス感染症の対策により実施できなかった。トゥファ堆積場における水のH2O-δ18Oは年間を通じてほぼ一定に推移し、前年度と同様の傾向が見られた。また、源泉水中の硫化物の存在量を求めたが、ほぼゼロであった。これにより、SO42--δ34Sの正の値(約35‰)は山体中での硫酸還元によって生じていると考えられる。また、下流に向けてのSO42--δ34Sの減少傾向は、源泉での湧出後に地表水との混合で生じていることが明らかとなった。 本年度は、既に採取済みの現生トゥファ試料と古トゥファ試料を用いて、トゥファ年輪方解石δ13C、δ18O、δ34Sの高分解能分析を開始した。トゥファ方解石δ13Cとδ18O分析については、マイクロドリルで0.1~0.2 mm幅で分取した試料を、炭酸塩-IRMS装置で分析する目途を立てた。一方、トゥファ方解石δ34Sについては、S-IRMS装置に対応する試料量を確保するため、塩酸処理によって方解石から硫黄を抽出し、BaCl2によるBaSO4固定法で行い、トゥファ試料の分取は1 mm幅で行った。結果、現生トゥファSO42--δ34Sでは全試料の分析が行われ、数年単位の不規則的な変動が見られた。一方、古トゥファ分析では十分な試料量を確保できなかった部分があったが、現生トゥファに比べて2倍の振幅(約1.5‰)で変動する結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度も引き続き、浅間火山・濁川源泉とその下流域での2ヶ月ごとの調査・試料採取と、水の化学分析・安定同位体比分析に継続する。特に、昨年度実施できなかった4月と6月の観測は行うようにする。これにより、SO42--δ34Sの季節変動が流量によるものかを検証する。また、源泉水のSO42--δ34Sの正の値をもたらす硫酸還元バクテリアと、源泉水が流下した際に生じる鉄酸化の細菌の微生物相解析を実施し、源泉からトゥファ堆積物に至る水の安定同位体比と化学成分の変化の原因を検討する。 現生トゥファ試料と古トゥファ試料を用いた研究では、トゥファ年輪方解石δ13C、δ18O、δ34Sの高分解能記録を復元する。トゥファ方解石δ13Cとδ18O分析については、マイクロドリルで0.1~0.2 mm幅で分取した試料を、炭酸塩-IRMS装置で分析し、数カ月単位での記録を現生トゥファ試料と古トゥファ試料において復元する。さらに、古トゥファSO42--δ34Sに関しては、前年度に十分な試料量を確保できなかったポイントの分析試料を確保し、S-IRMS分析を行う。これにより、現生トゥファの1998~2012年と、古トゥファの26年間分の3種類の安定同位体比記録を復元する。さらに、復元した安定同位体比記録から気温と降水量指標を抽出し、過去2000年間の樹木年輪記録との比較からトゥファ形成年代の推定を行うと共にその有効性を検証する。 以上の水とトゥファの結果を気象及び火山活動記録と合わせて総合的に解析し、火山地帯におけるトゥファ方解石の安定同位体組成に記録される環境変動要因を包括的に解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症対策のため、学内・学外での研究活動に制限が生じた。このために、分析に必要な物品費、野外調査及び学外施設での分析のための旅費、その他として計上した施設利用費が使用できず、次年度では、前年度に不足した研究内容を遂行することを計画している。
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