研究課題/領域番号 |
19K21677
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
興津 征雄 神戸大学, 法学研究科, 教授 (10403213)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 行政法 / 民主主義 / 正統性 |
研究実績の概要 |
本研究は、国や地方公共団体による統治のあり方の変化に対応するために、決定主体と被 影響主体の一致を可能にする新たな正統性原理を模索することを目的としている。政策実現のグローバル化・越境化や地方行政の広域化などに伴う統治のあり方の変化により、従来の地理的領域を単位とした民主主義モデルは限界を露呈している(民主主義の赤字)。本研究は、統治の越境化・広域化にもかかわらず決定主体の範囲と被影響主体の範囲をできるだけ一致させ、その正統性を維持するにはどのような理論モデルが適切かを探っている。その一つの有力な選択肢として,民主主義のモデルを地理的領域から切り離して,政策分野ごとに捉え直したうえで、利害関係者の参加を基軸とする新たな正統性モデルを模索する。このようなモデルは、地理的領域で区切られた人民の平等な参加(一人一票)を基軸とする伝統的な民主主義理論からは、利害関係者による公益の簒奪を招くものとして忌避されており、公法学の観点からの理論化はほとんどなされていないものである。 研究期間初年度である2020年度は、主たる業績として、論文6本(うち英語論文1本)を公表するとともに、国際学会における発表を2件行うことができた。具体的には、選挙権が与えられる基礎と国籍との関係について、国民主権および地方自治の観点から検討し、本研究の核心である「決定主体と被影響主体の一致」に基づく統治の正統性確保の可能性と限界について、一定の視角から分析をすることができた。また、国際行政の正統性問題に対する国際行政法のアプローチを検討し、グローバル行政法との関心の違いを明らかにするとともに、行政法学全体における正統性問題の位置づけを探った。裁判所に対する意見書の提出を通じて、研究成果の社会への還元・社会実装を図った。国際学会での発表においては、英語論文発表のためのフィードバックを受けることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間初年度である2019年度は、主たる業績として、論文6本(うち英語論文1本)を公表するとともに、国際学会における発表を2件行うことができ、順調に進展していると評価している。 具体的には、外国人選挙権に関する論文(「在留外国人の地方選挙権について」「グローバル化と国民主権」)において、選挙権が与えられる基礎と国籍との関係について、国民主権および地方自治の観点から検討し、本研究の核心である「決定主体と被影響主体の一致」に基づく統治の正統性確保の可能性と限界について、一定の視角から分析をすることができた。また、国際行政法に関する論文(「行政法から見た国際行政法」「International Administrative Law」)において、国際行政の正統性問題に対する国際行政法のアプローチを検討し、グローバル行政法との関心の違いを明らかにした。「行政法学の自己規定」論文においては、行政法学全体における正統性問題の位置づけを探った。「在外国民最高裁判所裁判官国民審査権訴訟 意見書」は、裁判所に対する意見書の提出を通じて、研究成果の社会への還元・社会実装を図ったものである。判決は(コロナウイルス感染症による期日延期がなければ)2020年5月言渡しの予定である。 2件の学会発表では、国際難民法を素材として、国際社会の共通課題(難民の保護)に対し、国家がどのような立場で現に関わっており、また関わっていくべきかを論じた。自分にとっても新しいテーマであると同時に、国際行政法・グローバル行政法において必ずしも明示的に論じられていないアプローチを採っているため、結論部分をさらに練り上げる余地があるが、学会におけるフィードバックを踏まえて、英語論文として公表することを予定している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度も、引き続き、研究計画調書に記した研究計画に従って、研究を遂行する。具体的には、次のとおりである。 第1に、2019年度に行った国際学会での発表を元にして、国際難民法に関する英語論文の完成を目指す。完成したら、国際的な査読誌に投稿する。 第2に、2019年度に日本語で論文を発表した外国人選挙権について、英語論文を執筆する。日本の状況を素材にしつつ、さらに一般的な理論展開を図るため、他国の状況についても調査する。完成したら、国際的な査読誌に投稿する。 第3に、統治の正統性モデルとして、信認関係(fiduciary relationship)に着目し、理論研究を進める。従来の政治理論・法理論において、統治の正統性を基礎づける理論として有力だったのは、治者と被治者の同意に基づく社会契約論である。しかし、社会契約論は、現実に政府と国民との間に契約が結ばれたという歴史的事実が実証できないこと、選挙権のない外国人や将来世代との関係では理論的仮設としても同意が想定できず、正統性が根拠づけられないことといった限界がある。国際行政・グローバル行政においても、その名宛人である私人が意思決定・政策決定に参加するプロセスが確立していないため、社会契約論はそのままの形では適用できない。そこで、治者と被治者の間に必ずしも同意が存在しなくても、治者による権力行使を正統化するとともに、その限界を設定する理論として、治者と被治者の関係を信認関係と捉える考え方がある。現在英語圏で有力化しているこの理論に注目し、まず文献サーベイを行って研究動向を正確に把握するとともに、日本国憲法前文の「信託」概念や、日本の判例法理との接合可能性を探る基礎作業を、2020年度中に行い、日本語論文として公表することを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は、すでに説明したとおり一定の研究成果を公表することができたが、その基礎となった資料の多くは、研究代表者がすでに所有していたものや、所属研究機関が所蔵している文献資料・契約しているオンラインデータベースなどで賄うことができ、また、国際学会への出張旅費も、招待発表であったことなどの理由から、想定外に支出を少なくすることができ、次年度使用額が生じることとなった。 2020年度においては、引き続き文献資料の収集を続けるとともに、英語論文の執筆を予定していることから、英文校閲費用や翻訳費用に予算を費やすことを計画している。また、国際学会での発表のための出張も引き続き計画している。
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