研究実績の概要 |
本研究では、操作変数法と呼ばれる手法を利用して、災害復旧事業費が多いと与党得票率が増えるのか、日本の市区町村を対象に分析を行った。選挙の前年における各市区町村の1時間降水量の最大値を操作変数というものとして扱った。簡単に言うと、短時間に膨大な雨が降れば、災害が起きやすく、その結果として災害復旧事業費も増え、選挙結果に影響を与える、という因果連鎖があるだろうと考えたのである。重要なのは、与党の金城湯池だからといって(仮に災害復旧事業費が増えることはあったとしても)大雨に見舞われる、という逆向きの因果関係はないだろう、ということである。そのため、選挙が災害復旧に影響しているのではなく、集中的な降雨そして災害復旧事業費が選挙結果に影響しているのだと示すことができる。なお災害復旧事業費は普通建設事業費や失業対策事業費と並ぶ投資的経費の1つであり、インフラを元に戻す公共事業に使われるお金で、個人を救済するために手渡される訳ではない。 1990年代から2010年代までの、衆参両院の選挙結果を分析してみたところ、有権者1人当たりの年間の災害復旧事業費がゼロから平均値(7,704円)まで増加した場合、与党得票率は衆議院選挙で2.8%ポイント、参議院選挙で5.4%ポイント、それぞれ増加することがわかった。さらに分析を進めると、この増加は、棄権者が投票に出向いて与党に票を入れる「動員」効果と呼ばれるメカニズムではなく、もともと野党を支援していた人が与党に票を振り替える「説得」効果と呼ばれる経路によることもわかった。 この研究をまとめた論文をPolitical Beahvior誌に投稿したところ、無事採択され、出版された。
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