社会主義体制転換後の国家機構構築は,民主主義市場経済を経験した人材がいない条件のもとでおこなわれる.本研究は,旧東独の国家機構構築の経緯を文献調査と当事者へのインタビュー調査によって分析することで,この問題が持つ一般的な含意を検討することを目的とした. コロナ感染症流行によるスケジュール調整困難とインタビュー対象者が高齢者であることへの配慮から,文献調査の比重増大への研究方法変更と研究スケジュールの調整とが必要だった.今年度は,ドイツ公文書館での文献調査を再開でき,ベルリンの壁崩壊から1994年末の信託庁による民営化事業終了までの期間の行政機構構築の詳細とそのファイナンスについての文献収集と分析をおこなうことができた. これまでの研究で,西独人材の直接派遣と両独人材間の個人的ネットワークとを通じたノウハウと知識の大規模かつ恒常的な移転が国家機構構築と運営を可能にしたことを明らかにした.この知識移転の前提として,第1に,西独国家機構と社会的市場経済という体制転換の具体的ゴールの存在,第2に,ドイツ語という共通言語であったことを指摘していた.これに加えて,今年度の研究により,西独および世界資本市場からの資金動員により知識移転のための資金が確保され,その有効利用が監視されたという新たな要因を見出した.同時にその過程の副次的研究成果としてソ連期の資金循環の分析というおそらく世界的にみても例のない作業をおこなうことができた.
|