研究課題/領域番号 |
19K21700
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
岸本 太一 東京理科大学, 経営学研究科 技術経営専攻, 講師 (70508556)
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研究分担者 |
岸 保行 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (50454088)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 文化製品 / 国際展開 / 大衆品化 / ワイン / 模創品 / 伝統品 / 日本酒 / 本国側の構造転換 |
研究実績の概要 |
本研究では「日本市場におけるワインの大衆品化」を事例研究の主な題材として活用し、「文化製品の国際普及メカニズムの全体像」を大まかに描写することを、最終目的としている。そして、その結果を、短編論文に留まらずに、著書化することを目指しており、この点を上述の目的と共に、挑戦的研究としての意義の一つに掲げている。 以上を踏まえ、本年度は、その中間作業という位置づけで、全体像の構成要素となる鍵現象の抽出を試みた。具体的には「模創品と伝統品のダイナミズム」と「本国側の構造転換」という二つの鍵現象を抽出し、その現象が普及に貢献する論理を導出した。 模創品とは、伝統的な製法や作法の一部に、創造的な変更が加えられた文化製品のことを指す。寿司で言えば、カリフォルニアロールが模創品の典型例である。模創品の普及は「製品の文化を捻じ曲げ、伝統品の普及を妨げる」といった負の影響と共に語られることが多い。しかし、日本市場におけるワインの事例では、濃縮還元ワインという模創品が、伝統品と動的に補完し合う形で、普及に大きく貢献していた。本年度は、その背後にある論理を解明し、その結果を「日本経営学会 第93回大会」で発表した。 「本国側の構造転換」の説明に移る。構造転換の一例としては、流通チャネルや開発体制の転換等が挙げられる。文化製品の国際展開の議論では、進出先の国のみが考察対象となる傾向にある。しかし、調査した事例では、海外進出を契機に、本国側の構造が転換し、その転換により国際普及が促進される、という現象が見られた。本年度は、この現象も考察し、その成果の一部を「国際ビジネス研究学会 第26回全国大会」で発表した。 以上の他に、未公表の実績も存在する。本年度は、ワイン業界の関係者に対する訪問調査と公刊統計によるマクロデータ分析も行った。これらの成果は、著書の一部に活用される形で、将来的に最終目的に貢献する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「やや遅れている」を選択した最大の理由は、海外調査の予期せぬ中止にある。 本年度の海外調査先は、事前の計画では、チリを予定していた。しかし、調査協力先の確保状況を考慮し、来年度に予定していたフランス調査と入れ替えることとした。 フランスを中心とした調査は、2020年3月8日から20日にかけて、実施するつもりであった。具体的には、フランス、ドイツ、ベルギーの3カ国に渡航し、現地のワイナリーや協同組合、輸出のブローカー、商社、フォワダー、ワインの国際見本市等を訪問し、現場見学とインタビュー調査を行う計画を立てていた。調査のアポイントメントも全て取り終えていた。しかし、COVID-19の流行の影響で、全日程をキャンセルせざるを得ない状況となった。同調査は、本年度に実施する調査の中で、最も大きな調査となる予定であった。また、実施予定時期が年度末であったため、対応策を講じる余地もほぼ皆無であった。以上の結果、計画に対する遅延が避けられない状況に陥ってしまった。 他方、上述した海外調査以外については、当初の計画を上回る速度で進めることができている。公刊統計によるマクロデータ分析および国内学会を通じた研究成果の公表については、計画通りに実績を構築した。日本国内におけるフィールドワークに関しても、ワインの小売店、卸売店、飲食店に対して実施し、国際物流関係者に対しても、インタビュー調査を行った。以上に加えて、来年度に行う予定であった国内ワイナリー調査を、一部前倒しで実施することができた。大型海外調査の未実施にもかかわらず、全体の進捗を「遅れている」ではなく「やや遅れている」とした理由は、この点にある。 なお、当初計画に入れていたアンケートによる事実調査については、公刊統計調査とフィールドワークのみで必要な事実を十分に収集できることが判明したため、実施しないこととした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針の変更度合いは、事実調査面と分析論考面で大きく異なる。事実調査面に関しては、当初の計画からの変更を試みる。具体的には、下記の3点の変更を考えている。 1点目は「アンケート調査を取りやめる」という変更である。この理由については、既に「現在までの進捗状況」の項目で述べた。 2点目は「日本酒業界の調査を加える」という変更である。国際普及メカニズムの解明は、普及段階の異なる文化製品を比較すると、より効果的に行える。この点を、本年度の研究活動で、強く実感した。日本酒の国際展開は、ワインとは異なり、まだまだこれからの段階にある。また幸いにも、研究分担者の岸は、在籍する新潟大学で「日本酒学」関連のプロジェクトにコミットしている。以上の利点を活かし、日本酒とワインの比較分析を研究内容に加えていく。 3点目の変更は「大型海外調査を一回減らす」点にある。当初の計画では、大型海外調査を一年に一回、計3回実施する予定であった。しかし、「現在までの進捗状況」の項目で述べた通り、本年度の海外調査が中止となってしまった。日本酒調査の追加に関しては、アンケート調査の時間を充てることで、対応することができる。その一方で、海外調査の方は、回数を維持できない可能性が高い。COVID-19の影響により、来年度の学事日程が詰まってしまい、長期出張の日程確保が困難な状況に変化したためである。ゆえに、こちらについては、オンラインによるインタビュー等の次善策によって、対応を試みたい。 分析論考面に関しては、変更の予定はない。来年度も引き続き「①:全体像の構成要素となる鍵現象の抽出と論考」を行う。ただし、来年度は、今年度とは別の鍵現象を取り扱う。加えて「②:要素間の関係性を論考し、全体像を構築」する作業にも取り掛かる。言い換えれば、①と②のプロセスを通じて、文化製品の国際普及メカニズムの全体像描写を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、大型海外調査の予期せぬ中止にある。「現在までの進捗状況」の項目で述べた通り、2020年3月8日から20日にかけて実施する予定であったフランスを中心とした海外調査が、COVID-19の流行で、全日程をキャンセルせざるを得ない状況となった。その影響で、同調査で使用する予定であった旅費(研究代表者と研究分担者の二人分)やフランス語通訳等の依頼にかかる人件費等の出費の大半が無くなった。 次年度使用額の用途候補としては、主に次の三つを考えている。一つ目は「上述した海外調査のキャンセル料」である。直前の中止であり、宿泊費や交通費等の一部でキャンセル料が発生してしまったため、その支払いに使用する。二つ目は「上述した海外調査と類似の調査を行なった際の費用」である。上記した調査については、COVID-19の流行が終息した段階で、類似の調査を実施する可能性がある。また、訪問調査が困難な場合は、オンラインによるインタビュー等の次善策による実施を検討している。それらの実施費用が、二つ目の用途となる。三つ目は「新たに加えた調査の費用」である。「今後の研究推進方針」の項目で述べた通り、次年度からは、「日本酒業界の調査」を、当初の計画に追加する。その実施費用が三つ目の用途候補である。 なお、翌年度分として請求した助成金の使用計画に関しては、今の所、大幅な変更の予定はない。
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備考 |
「岸本太一 経営研究所」は、研究代表者が個人で開設したwebページとなる。
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