研究課題/領域番号 |
19K21703
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
金子 守 筑波大学, システム情報系, 名誉教授 (40114061)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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キーワード | 限定的理性 / 公共部門 / 費用分担 / 計算機プログラム / 熟議 / 多数決ルール / 少数派保護 |
研究実績の概要 |
本研究計画は、市町村レべルの水資源・ごみ処理場の共同体における費用分担問題について考察する。研究を始めて、市町村レべルだけでなく国単位での税制や、国家の跨った制度の調整などを考えざるを得なくなり、2020年度からはその問題を集中的に研究してきた。世界の平等性と民主的運営の立場から論文にまとめた。それまで「世界政府論」を考えてきたが、「世界連邦政府論」に発展させ、業績欄の論文 "Exploring new socioeconomic thoughts for a small and narrow world: unity and decentralization"としてまとめた。 世界連邦政府は、国家主権を超越し各国家の問題に介入する権利を持つが、日常的な社会・経済運営に関しては国家主権を認める。少数派の保護などは、世界連邦政府が各国家の実質的運営の制約として課するのである。2021年度は、この限定合理性の問題をより広範な視野から明確化する作業を行った。 2020年に出版した論文 "Expected utility theory with probability grids and preference formation" Economic Theory 70,723-764で、期待効用理論の枠組みの中でそれを進展させた。この立場からは、「世界政府論」が世界運営からの乖離が大きすぎることが分かるからである。特に、セント・ぺテルスブルグ・パラドックスを、SP市場モデルを定式化して、どのような意味でパラドックスであるかを研究した。SP市場モデルでは、人々は限定理性を持ち、確率の認識も限定的である。そこで、一定割合の人々がSPくじを買うことを示した。 このような限定合理性の研究により、社会・国家を制度的に考察することを要することが分かってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度はコロナ禍で自宅での研究時間が増えため本研究課題をより基礎から、また広範に見直そうと考え、世界連邦に関しての考察をまとめ、上記論文として出版した。 また、「研究実績の概要」に記載した2020年に出版した論文の応用として、限定合理性を考え直した。限定合理性は人間達の言語を通しての熟議を明確にするためにも重要である。限定合理性が直接的に出現する問題として、セント・ぺテルスブルグ・パラドックスを2020年度から研究している。2021年度は、このような限定合理性を、公共部門における市町村の共同組合の費用分担を少数派保護のルールを入れた多数決状況に応用することを計画した。 この計画のため、セント・ぺテルスブルグ・パラドックスの限定合理性の立場からの解決がどうしても必要になり、そのための理論とモンテカルロ法に基づいた計算機シミュレーション研究を始めた。この二つの計画は大きな距離があるように思えるが、効用測定や費用分担方式の数学的表現が参加者達の熟議対象となり、それの定量的研究のために計算機シミュレーション研究が必要となる。よい広範な問題(少数派保護制約のついた多数決決定など)に応用可能な計算機プログラムを2021年度中は作成を目指していたが、年度中には完成しなかった。上記計算機プログラムが完成すると、セント・ぺテルスブルグ・パラドックスの解法だけでなく、「ブラックスワン」のような発生確率は小さいが、起きた場合のダメージが大きな現象の理解やそれからの防御手段の研究にも役立つと思われる。もちろん、人々の熟議の研究にも役立つ。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画の遂行のため、セント・ぺテルスブルグ・パラドックスの限定合理性の立場からの考察が必要となった。そのための理論とモンテカルロ法に基づいた計算機シミュレーションの計算機プログラムの構成を2021年度中に行っていた。上記研究を、公共部門における費用分担問題の参加者達(市町村)の熟議による多数決交渉に応用する計画である。その多数決ルールには少数派保護制約が組み込まれており、そのルールの複雑性と交渉結果を限定合理性の立場から研究する。 費用分担の熟議交渉に使われる数学的言語を明確にする必要があるが、それの定性的部分は本研究計画の1年目に進展させている。ただ、具体的問題を研究するため、それの定量的研究が必要となる。そのため、上記の計算機プログラムが必要なのである。まずは上記計算機プログラムが完成すると多くの具体例が考察可能になり、当初の研究計画を大きく遂行させることができる。例えば、参加者の認識的立場から、もっとも費用分担形式の複雑性を議論し、熟議の難しさの尺度を研究できる。費用分担形式の簡易さは熟議の必要条件とも言える。このような研究によって、本研究計画は当初の目的が達成される。このような熟議の研究は、国際間の調整にも役立つはずである。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、学会大会(The 20th Annual SAET Conference)がオンライン開催となり、そのための旅費の執行がなかった。 2022年7月16日~7月22日に、オーストラリアで開催されるSAET Conferenceに出席し、発表を行う予定である。
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