当該年度は、指値注文の為替レート価格発見に対する貢献を、複数の実証的方法で計測した。第一に、structural vector autoregressive model(SVAR)を利用した、情報シェア利用したものである。具体的には、SVARにより指値注文の為替レートに対する長期的影響を計測した。情報シェアによるアプローチでは、市場最良気配値付近の指値注文の価格発見に対する貢献が大きく、それは成行注文(market order)のそれを大幅に上回るものであった。この実証結果は、情報の非対称性が小さい市場では、情報トレーダーは指値注文を使用するとする理論予測と整合的である。第二に、一定の仮定下、market orderの利益を計算した。その結果、米国マクロニュース発表時におけるmrket orderの利益は小さい、もしくはマイナスであることが判明した。これは、マクロニュースに対し、為替レートが取引を介することなく、瞬時に情報を反映することを示唆する。つまりは、オーダーフロー(ネットでのmarket order買い)の情報伝達力が小さいということを意味する。人工知能を利用した高速取引が台頭している現在の為替市場では、それらの競争により情報の非対称性が小さくなっている。その結果、指値注文による期待利益が成行注文のそれを上回るようになった。その結果、情報トレーダーは合理的に指値注文を選択する。この実証結果は、これまで成行注文が価格発見に貢献するとされてきた理論的研究の指値注文の役割に注目したものへと発展させる必要性を主張するものである。
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