研究課題/領域番号 |
19K21714
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
松本 行真 近畿大学, 総合社会学部, 准教授 (60455110)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | コミュニティ / 避難 / 社会関係資本 / 民衆知 / 非日常 |
研究実績の概要 |
本年度に実施したのは次の(1)(2)である。 (1)一つは福島県いわき市沿岸部(豊間地区薄磯区、四倉地区)における避難訓練の立案・実施・評価である。既存の防災・減災計画パラダイムの批判的摂取をしつつ、住民組織(区会、区長会)との協働により進めた。特に薄磯区においては薄磯区会・薄磯まちづくり検討委員会・消防団などとの連携により、コロナ禍における津波避難訓練を11月に実施した。その後、住民組織との協議により次年度以降の地区防災計画立案を区会の事業として組み込まれることになった。もう一つは北海道(室蘭市、稚内市、網走市)における地域住民組織と地域メディア(コミュニティFMなど)・県域メディアの連携による、平時・有事の情報収集・共有・発信体制構築に向けた可能性調査である。各市の町内会連合会や各コミュニティFM局へのヒアリング調査を行うとともに、(別予算により)単位町内会(室蘭市、稚内市)や地区町内会連合会(網走市)へのアンケート調査を行い、平時・有事における住民組織とメディア連携の実態・評価・期待を明らかにした。 (2)は『災禍の民衆知と避難行動の比較分析』、『分化・複層化する原発事故避難者のコミュニティ』の2冊に集成した。前者はインドネシア・バリ島のアグン山噴火による一連の避難が、「事前防災」によりバンジャールという住民組織によりなされていたことを明らかにし、バンジャール主導による噴火からの避難実態から得られる知見から、我が国の避難体制構築のパラダイムを再考したものである。後者は避難者の帰町(/避難先定住)が進む福島県双葉郡を主なフィールドに定めるとともに、被災者への広域支援ネットワークへの避難者をも対象に、原発事故避難者の分化・複層化するネットワーク/コミュニティで織りなされる「生活の共同」の実態把握を通じて、①「共同性の諸相」、②「共同性の変容と交錯」を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルスの感染拡大などの影響によりヒアリング調査が遅れてはいるものの、住民組織との連携による地区防災計画立案に向けた準備が進んでいること、道内各地のアンケート調査が実施できたこと、現時点までの成果ではあるが2冊の報告書として集成できたこと、さらに「記憶は記録・伝承され教訓となるのか―コミュニティ、メディア、アーカイブの視点から―」という試論をとりまとめた(学内紀要に投稿)。 以上から、防災パラダイムの再考に向けた諸災害への調査研究が進んでいるとともに、そのとりまとめも進みつつあることもあり、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の主なフィールドは噴火(バリ島)と原子力災害(福島県双葉郡)であることは変わらないものの、パラダイムの再考に向けて考察対象とする災害を地震(北海道内)や水害(福島県いわき市)へと拡げている。さらに2020年冬からの「新型コロナウイルス」における防疫の議論も(既存の教育や教訓では対応が難しい意味で)想定外の対応という文脈でとらえ返すと、本調査課題の対象となると考えることから、事態収束後に上記フィールドへの聞き取り(必要に応じて質問紙調査)を実施する。具体的には次の通りである。 収束前は現地調査が難しいため、(1)各地の現状に関する記事、論文などの収集・整理を行うとともに、必要に応じてオンラインによる聞き取りを行う(4~9月)。(2)収束後に現地へ赴き、各フィールドのキーパーソンらへ詳細な聞き取りを実施する(10~3月)。また、(3)学会発表を行うことで研究者から評価を受け、成果集約の方法や手順を確認する(日本都市学会10月など)、(4)調査内容をまとめ、論文投稿を行う(日本都市学会など)、(5)上記の調査・検討結果をふまえながら、『災禍の民衆知と避難行動の比較分析』、『分化・複層化する原発事故避難者のコミュニティ』の刊行を目指す(1~3月)。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大により、ヒアリング先が限定されたために旅費の予定通りの執行が出来なかったことが主な理由である。 次年度はこれまでの成果を書籍として発刊するために充当する計画である。
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