『原子力災害により分化・複層化する地域社会―復旧・復興に向けた富岡町の道程―』が御茶の水書房から2023年10月25日に刊行された。 本書の要約は以下の通り。 震災前の区会という従前のコミュニティを論考の基底にすえつつ、震災後に結成された仮設住宅自治会だけでなく、(震災後の口コミによる)ネットワークと(口コミも震災前の関係に基づいたりする)コミュニティの両性質を併せ持つ広域自治会、さらには広域支援のためのネットワークにも焦点をあてる。具体的には、帰還困難区域を除き避難指示が解除された双葉郡(主に富岡町)にフィールドを定め、おおよそ2015年から2023年にかけたリアルな「いま」を描きつつ、そこに住まう/住んでいた人びとは震災前後も「さほど」変わらず、帰町/避難先定住の段階においても同様なことを各視点による調査結果から明らかにした。 第1章では福島をめぐる諸言説を概観する。第2章では多くの避難者が集住した仮設住宅で発足した自治会を対象に、その設立から解散、意義を確認する。第3章と第4章は「サードプレイス」としての広域自治会や交流サロンの設立経緯と災後10年・コロナ後の展開と位置づけをみる。第5章と第6章は被災者支援を共通テーマに、5章では北海道岩見沢市と南幌町・札幌市にそれぞれ拠点をもつ支援ネットワークを、6章は富岡町民による郡内発の支援ネットワークについてのこれまでの経緯と今後の展開や課題を検討する。第7章では主に避難指示解除後の帰町・帰還者の区会、避難先定住者が入居する公営団地自治会の実態と課題をそれぞれ確認する。第8章は原子力防災の視点で震災前の訓練、発災後の避難実態、発災後町内外で実施された訓練の課題も検討する。 これらの議論を通じて、「分化」や「複層化」はそれぞれ一つの側面に過ぎず、もう一つの「統合」や「単層化」という諸相を浮き彫りにすることをねらいとする。
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