研究課題/領域番号 |
19K21753
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
土佐 幸子 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (40720959)
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研究分担者 |
石井 恭子 玉川大学, 教育学部, 教授 (50467130)
笠 潤平 香川大学, 教育学部, 教授 (80452663)
後藤 顕一 東洋大学, 食環境科学部, 教授 (50549368)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 高校理科授業 / アクティブ・ラーニング / 授業評価指標の開発 / アクション・リサーチ / AL型授業開発 |
研究実績の概要 |
本研究は,高校理科(物理・化学)において、アクティブ・ラーニング型授業への変革を目指し、次の3点を具体的目的としている。 1)日本・米国・中国の3か国において、現地で授業参観を行い、そのデータを基に日本の高校理科授業の特徴と課題点を明らかにする。(1年目) 2)調査結果を基に、日本のAL型高校理科カリキュラムを開発し、現場において授業実践と効果検証を行う。(2年目) 3)開発したAL型高校理科カリキュラムを、教員志望学生・現場教員、理科教育界に広め、AL 型高校理科授業の推進運動を展開する。(3年目) 令和2年2月以降、新型コロナウイルス感染拡大のため、米国と中国におけるデータ収集が不可能となった。そこで、過去に収集した日本の高校理科授業のデータを用いて、RTOPという国際標準的授業指標による分析を行った。RTOPは米国で開発された英語による指標であることから、日本語訳を作成し、その訳と日本の高校理科教育における妥当性について、分析者間の相関をとることにより検証した。また、原著では曖昧だった0から4の指標について、相違を明確にするために、全25項目についてルーブリックを作成し、記述語の妥当性について協議を重ねた。その結果、日本の高校理科授業について、生徒間の話し合いがあっても教師主導の授業は30~50点(100点中)、研究授業のように意図的に練られた授業は50~60点、探究的で生徒主体の授業は70~75点という傾向が明らかになった。 さらに、11月には高校物理教員1名の協力を得て、授業改善のためのアクション・リサーチを行った。オンラインで教員と研究者が協議し、授業検討、授業参観(ビデオ)、授業後協議の3要素を3回繰り返した。RTOPのスコアは40点台、50点台、60点台と回を重ねるごとに向上した。RTOP日本語版を指標として、授業改善を行うことの有効性が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように、コロナ禍の中、国際調査は中止せざるを得なくなったが、その代わりに日本の高校理科授業について、RTOP日本語版という授業指標を整備し、傾向を明らかにすることができたのは大きな成果である。また、RTOPが根拠とする教育理論と日本の学習指導要領の理念との比較を行い、RTOPは「生徒の視点に立つことの重要性を指導要領以上に強調した学習観に立つもの」であり、これは日本の理科教育界においてAL型指導法を推進していく上で、重要な意味をもつものであると位置づけることができた。これで授業のアクティブ・ラーニング度合いを定量的に測り、比較することが可能になった。RTOP日本語版は、PhysPortという米国物理教師学会が運営するサイトに日本語訳として掲載され、研究者の求めに応じて提供することができる形になっている(https://www.physport.org/assessments/assessment.cfm?A=RTOP)。RTOP日本語版の妥当性については、令和2年9月の日本物理学会秋季大会で発表された。 また、RTOP日本語版とアクション・リサーチという手法を用いて、オンラインで有効な教員研修を行うことができたのは画期的な成果である。これはアクション・リサーチの有効性を示すとともに、ツールとしてRTOPという授業評価指標を確立したことによって、目指す学習者の姿をより鮮明にした議論が可能になったことを意味する。この成果は令和3年3月の日本物理学会年次会で発表された。 本課題の研究者4名は異なる都県に在住するが、Zoomによるオンライン会議を4月から12月までに13回行い、指標やアクション・リサーチについて活発な議論を展開することができた。コロナ禍の中、オンラインコミュニケーションの活用によって議論の場をより負担なく、より頻繁に設定することができたのも成果の1つと言えよう。
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今後の研究の推進方策 |
上述のアクション・リサーチで取り上げた授業内容は、協力者の高校教員が用意したものであり、それについて研究者との議論を通して教員が追加・修正を加えて実践を行ったが、本研究の目的の1つであるAL型高校理科カリキュラムの開発までには至っていない。しかし、新たなAL型高校理科カリキュラムを策定したとしても、それを現場教員がすぐに取り入れて長期に実践を行うことは考え難く、現場に即した計画変更が必要と考える。そこで現在、高校化学教員1名の協力を得て、RTOPの評価者トレーニング用ビデオを段階別3本作成することを進めている。米国のRTOPには評価者トレーニング用ビデオ3本と専門家による指標が用意されている。3本のビデオは1)教師主導型、2)通常、効果的と考えられる授業、3)生徒主導の授業、という構成である。トレーニング用ビデオを公開することにより、AL型授業として求められる具体的な姿を明示することができ、現場教員が自分の学校に合った形でAL型授業を実践することがより可能になると考える。また、RTOPを用いた授業改善を目指す教員研修について、1つの高校の令和3年度の年間活動に助言を求められており、現場実践を通してAL型理科授業の推進を図る。さらに、これらの活動を通して得られた知見を学会等で発表し、最終年度の成果を広めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大のため、訪問による授業参観が延期になったため
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