研究課題/領域番号 |
19K21754
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
松崎 秀夫 福井大学, 子どものこころの発達研究センター, 教授 (00334970)
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研究分担者 |
平山 暁 筑波技術大学, 保健科学部, 教授 (20323298)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 自閉症 / 酸化ストレス / フリーラジカル / 社会性 |
研究実績の概要 |
自閉スペクトラム症(ASD)は社会性の障害、コミュニケーションの障害、興味対象の制限を臨床的特徴とする発達障害である。早期診断はASD臨床の最重要課題であるが、この領域の臨床医が決定的に不足している現状から、早期診断には客観性・信頼性の高いバイオマーカーが求められてきた。 我々はASDにおける酸化ストレスの役割に注目し、フリーラジカルの末梢血中消去活性測定が未就学ASD児童の早期診断に役立つ可能性を見出して論文投稿を行ったが、サンプルサイズが小さい、年齢層が限られている等のコメントがあった。そこで2019年度の研究では、学齢期(6歳以上)のASD児童の血液検体を収集して、複数の活性酸素種について電子スピン共鳴装置(Electron Spin Resonance:ESR)によるフリーラジカル消去活性測定を行った。学齢期と未就学の児童で計45例の自閉症者検体、計58例の定型発達者検体をESRスピントラップ法で評価比較したところ、一重項酸素、ヒドロキシラジカル、スーパーオキサイド、アルコキシラジカルの4種のフリーラジカル消去活性パターンが有意差を示した。このうちヒドロキシラジカル消去活性減少、スーパーオキサイドとアルコキシラジカルの消去活性増大のパターンは学齢期と未就学のASD児童に共通していて、特に6歳以下の子供におけるASDの診断のための非常に強力な非行動的ツールとして役立つことが確認できた。メタボローム解析、末梢血リンパ芽球の遺伝子解析、注視点検出装置を用いた社会性評価は前記の事情により優先順位が変更となったうえ、コロナウイルス感染拡大防止のためとられた研究環境集約措置によって行われなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和元年度は末梢血検体解析と社会性評価を行う予定で①末梢血血清のフリーラジカル消去活性測定(ASD群と定型発達群の末梢血血清をESRにかけ、多種類のフリーラジカル消去活性を測定する)、②末梢血血清メタボローム解析による代謝産物の特定(前記の血清を用いてCE-TOFMSによるメタボローム解析を施行する)、③末梢血リンパ芽球の遺伝子解析(前記の代謝産物について関連が深い遺伝子を選び、同じ被験者検体のリンパ芽球中の遺伝子発現変化を定量リアルタイムPCRで評価する)、④注視点検出装置を用いた社会性評価(定型発達児、ASD児各60例 (3~10歳) で注視点検出を行い、ESR測定値との相関解析によって血中フリーラジカル消去活性が社会性を反映するかどうかを調べる)が予定されていた。しかし、投稿論文の査読者への対応によって①の例数を増やす対応に追われたうえ、コロナウイルス感染拡大防止措置のため②③は行われなかった。④については一部施行したものの、測定環境によって注視点検出装置の評価結果が安定せず、中止された。
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今後の研究の推進方策 |
例数を増やした論文の投稿を続け、コロナウイルス感染拡大防止措置が解除されたのちメタボロームと遺伝子の解析を令和2年度に行う。末梢血血清のフリーラジカル消去活性測定結果の投稿・採択と引き続くメタボロームと遺伝子の解析を優先して、当初予定されていた注視点検出装置を用いた社会性評価と臍帯血血清のフリーラジカル消去活性測定は中止とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年に入り、コロナウイルス感染拡大防止の観点から、予定した検体検査と消耗品の調達が進まずに研究が遅滞したため。このため成果発表を予定していた国際学会(20th Society for Free Radical Research; International Biennial Meeting, TAIWAN)も中止になり、応分の学会費用が執行されなかった。令和2年度の感染拡大状況が収束後に、一部計画を変更のうえ優先順位をあげて研究を再開する。
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