研究課題/領域番号 |
19K21776
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
白松 賢 愛媛大学, 教育学研究科, 教授 (10299331)
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研究分担者 |
長谷川 祐介 大分大学, 教育学部, 准教授 (30469324)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 学級経営 / ナラティヴ / フィールドワーク / 教師 |
研究実績の概要 |
本年度は3つの研究サブテーマを遂行した。 第1は,学級経営ナラティヴ分析の研究枠組みの深化・拡充である。学級経営において,児童に対して指導や介入を決定する際の教師の見方・考え方は,教師の解釈枠組みを表している。この解釈枠組みについて,児童のある言動やある行為を問題と捉える認知枠組みと,どのような指導や介入をするかという判断枠組みという概念を整理分類することによって,分析が容易かつ深まることを明らかにした。 第2は,学級経営をナラティヴに着目して分析するためのフィールドワークの遂行である。小学校を対象としたフィールドワークとして,X県において3学級,Y県おいて2学級の学級経営(朝の会,帰りの会,学級活動の時間等)の参与観察(ビデオ撮影)と教員対象のインタビューを実施した。調査対象は,ベテラン教員3名,中堅教員1名,若年経験層教員1名の学級である。コロナ禍による休校措置等があったことにより,調査は2020年6~7月から2021年3月まで行った。昨年度のフィールドワークの記録も含めて,4学級に着目し,トランスクリプトやデータ分析を進めた。 第3は,学級経営において,教師の解釈枠組みを分析することの重要性を明らかにしたことである。研究枠組みの深化・拡充を行いつつ,学級内におけるナラティヴ(語り)に着目し,フィールドワークから得られるドキュメントを分析し,その成果を岡田・白松(2021)の学術論文や日本学級経営学会の基調講演等で学術的に報告した。加えて,これらの研究成果を基盤として,教師用の実践研究雑誌等に寄稿論文の依頼や,学級経営に関する教員研修の講師の依頼が複数あった。特に,新型コロナ感染症の問題状況においても,教員研修の依頼は積極的に協力し,研究成果の社会的還元を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年は,成果に記載したとおり,理論研究や質的調査(フィールドワーク)については計画通り遂行することができている。年度当初は,新型コロナの感染拡大により,調査実施の困難な時期があったが,細やかな相談のもと,感染防御を徹底して,フィールドワークを遂行することができた。また,日本学級経営学会の基調講演及び鼎談,日本特別活動学会のシンポジウムに招待され,該当する領域に一定の評価を得た上で研究成果の学術的な発信を実施するとともに,教師用の実践研究雑誌での招待論文,多くの教員研修講師の依頼を受けるなど,研究の社会的還元については,当初の予定よりも多く遂行することができた。しかしながら,国外への研究成果の発信や,国際比較調査など,新型コロナの感染拡大により,実施できなかった内容があるため,概ね順調という判断をした。
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今後の研究の推進方策 |
これまで,研究計画に基づき,学級経営ナラティヴ研究の理論的探究と質的調査に関しては,計画以上に順調に進展している。特に,質的調査に関しては,新型コロナ感染症の問題がある状況においても,計画に基づいた調査の遂行が実施できた。この成果をさらに進展させるため,今後の研究の推進方策であるが,3つのサブテーマに分けて,計画を遂行していく。 第1は,学級経営ナラティヴ分析法の研究上の意義と,実践への応用可能性の探究である。学級経営上のナラティヴを「場のリアリティ」「教師と児童,児童間のライフストーリーの交差」「マクロなナラティヴ・リフラクション」の三つの次元で,分析を深める。この三つの次元の整理により,フィールドワークの分析結果の「個別性と全体性」を保障する研究枠組みを構築し,教育の質的調査研究の進展に寄与する。 第2は,これまで蓄積したドキュメント資料をもとに,分析を深め,学級経営における教師と児童の言語的資源を明らかにする。その際に,教師と児童の認知のズレ,児童間の認知のズレに着目して,この認知を共有する(専門的には,了解の世界を構成したり,調整したりする)過程を明らかにする。 第3は,国際比較調査は困難であるため,国内における教員志望学生の学級経営観に関する量的調査と分析を遂行する。6月に調査を実施し,8月から10月に分析を行う。 いずれのサブテーマに関しても,学会での口頭発表,学術論文,著書等を通じて,積極的に成果の公表を行い,かつ,教員研修等を通じて,社会的還元を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,新型コロナウィルス感染症の拡大により,学会発表で予定していた出張旅費,台湾との国際比較打ち合わせ旅費が大幅に使用できない形となった。また,このことに伴い,量的調査のプリテスト等で予定していた物品費の購入(研究分担者)の予算も,使用することができなかった。このため,次年度は,量的調査を国内において実施することとし,その実施の必要経費に充当する。また,質的調査の継続を実施し,フィールドワーク関連の機器やデータ分析のための予算に充当する。現状では,研究枠組みに関する理論的探究と質的調査に関するサブテーマは,予定どおり進行し,その成果が表れているため,この領域の計画をさらに進展させつつ,国際比較に当てる予定であった調査予算を,国内調査のみとして,修正して計画を遂行する。
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