研究課題/領域番号 |
19K21790
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
片田 房 早稲田大学, 理工学術院, 名誉教授 (70245950)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | オートマルチリンガル / サイバー・リンガ・フランカ / 母語と概念思考 / 教育の言語 / 多言語国家の教育事情 / ディスレクシアと英語教育 / 母語の心理的実体素 |
研究実績の概要 |
本年度(2022年度)の研究実績は、次の①~④に集約される。 ① 2021年度に収集が終了している基礎データを基に、母語と初等教育言語の統一性が学習力・思考力の発達に及ぼす影響をみるための一指標として選んだ古今東西のノーベル賞受賞者(全6部門、961名分)の母語と初等教育言語の同一性・非同一性の信憑性を再精査した。また、1936年~2018年のフィールズ賞全受賞者(53名)と2021年~2021年のブレークスルー賞全3部門の受賞者(107名)の言語背景についても同様の観点から再精査した。 ② 新学習戦略のための有効分野として焦点を当てた基礎数学分野に特徴的な英文体を他動性(transitivity)の観点から分析し、このパラメーターの細分化を行った。更に、該当する英文述語表現を抽出し、一覧表を作成した。これらは北米の大学院入学選考にあたって使用されるGRE/GMATの受験準備教材Math Reviewを基に、網羅されている4つの下位分野(Arithmetic Review, Algebra, Geometry, Word Problems)毎に分析して遂行した。 ③ 母語の“心理的実体素”と書記素の同一性に関する考察を行い、書記素の心理的実体性が読み能力の獲得と持続的な学習力の発展に影響を及ぼす重要な要素であることを示した。国際共通語として英語の使用が広がる中、英語学習者の母語の“心理的実体素”と“英語の書記素”との間に同一性が欠けるケースを提示し、世界が普遍的に共有する問題であることを示した。 ④ ③の結果を発達性ディスレクシアとリンクさせ、国内の学会にて発表した。また、ディスレクシアの認知が不十分と思われるロシア語圏の学会にて、2021年度に続くプレナリー・トークをオンラインにて行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2022年度もコロナ禍の影響下にあり、研究活動は限定的となった。国内外における研究協力者との打合せはオンラインで行ったが、研究活動の遂行に遅れをとり、遂行事項の完成度にも改善の余地を残した。また、海外における活動は全面的に停止せざるを得ず、特に、多言語事情を抱える途上国での活動が停滞した。 しかしながら、国内外への発信は、限定的な成果ではあったが、学会発表を通して必要最小限に遂行した。コロナ禍の規制が大幅に緩和される2023年度は、これまでに収集したデータとその分析の完成度を高めると共に、海外における現地調査や学会活動も活発化させ、本研究の完成に全力を尽くす。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍の規制が大幅に緩和される2023年度は、以下の項目(①~④)を遂行し、本研究成果の啓蒙を促進する。 ①「母語による公教育の重要性」と「抽象的・論理的思考力」との相関関係をみるために選び収集した三つの賞(ノーベル賞、フィールズ賞、ブレークスルー賞)の受賞者全員の言語背景データの統計的ネットワーク解析を完成させ、成果発表の原稿としてまとめる。 ②新学習戦略の基礎をなす分野として選んだ憲法と基礎数学の文体の特徴を“他動性”を焦点に明確化し、語彙項目および連語情報と併せて、両分野の適切性を確立し、成果発表用にテキスト化する。 ③翻訳が教育の不可欠な道具となっている多言語地域の教育事情と学習力の持続的発達に関する取材をデータ収集場所である発展途上国(フィリピン、ミンダナオ島)において直接行う。また、自動翻訳機・通訳機の飛躍的な発達がどのような教育的効果をもたらすかを現地にて考察し、課題を整理して発表原稿としてまとめる。更に、母語による概念思考の重要性を独自の視点(母語の心理的実体素と書記素の心理的実体性)から確立し、英語圏に顕著に発現する発達性ディスレクシアの現状分析と統合し、世界が抱える問題として普遍化し、成果発表の原稿としてまとめる。 ④ポータブル自動翻訳機・通訳機の高等教育における新しい機能・役割りを概念化し、新学習戦略の実践を発表原稿としてまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの進捗状況」で前述した通り、2022年度もコロナ禍の影響下にあって、主に発展途上国で遂行予定だった事案を停止せざるを得なかった。国内においてもオンラインによる打合せが多く、旅費は使用せず、支出は謝礼に留まるなど、最小限の支出となった。 2023年度に繰り越した研究費は、主に国外における研究活動とその関連経費(旅費及び研究協力者への謝礼)に使用する他、データの数理解析と新学習戦略の実践を始めとする国内の研究協力者への謝礼に使用する。また、国内における成果発表の研究集会の開催費と研究成果のインパクトを世界に発信するための出版関連費用に充当する。
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