研究課題/領域番号 |
19K21790
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
片田 房 早稲田大学, 理工学術院, 名誉教授 (70245950)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2025-03-31
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キーワード | オートマルチリンガリズム / SDG4: Quality Ed for All / 教育格差 / 母語基盤の教育 / 書記素の心理的実体性 / 多言語国家の教育事情 |
研究実績の概要 |
コロナ禍の規制が大幅に緩和された2023年度の研究実績は、以下の4項目に集約される。 ①翻訳が教育の不可欠な道具となっている多言語地域の教育事情と学習力の持続的発達に関する取材とデータ収集をフィリピン共和国のダバオ・デル・スル州にて行い、母語による公教育の重要性を独自の視点(母語の心理的実体素と書記素の心理的実体性)から確立した。また、識字能力に支えられた学習力と概念的思考力の発達がアイデンティの確立と変遷に連動していることを提示した。 ②教育格差の原点に、母語基盤の教育が遂行されている言語圏とそれが不可能な事情を抱えている言語圏との間に教育格差が生じていること、更に、教育言語の書記素の心理的実体性における差異が教育格差の原点にあることを提唱した。地球上のすべての人々を対象にした教育目標「SDG4: Quality Education for All」の達成への障壁になっていることを提示し、個人の努力目標を超える問題として普遍化した。 ③以上の成果を東欧言語圏(ポーランド)とロシア語圏の学会にて発表した。また、母語基盤の教育の研究者が集結するアジア圏の学会(タイ・バンコクにて開催)に出席し、本研究の視点の斬新性を確認した。また、日本言語政策学会に出席し、英語圏との言語・教育格差の観点が日本の教育政策に反映されているか否かの確認を行った。更に、台湾で開催された思考と言語の研究会にて発表すると同時に、発表論文として出版した。 ④本研究への一貫した協力者であるDavao del Sur State College(フィリピン・ミンダナオ島)において開催された分野横断的な学会にて、本研究成果を公開する招待講演を行い、本研究の主要テーマである「オートマルチリンガリズム」が教育格差解消の原動力としてどの程度機能し得るかの見解を提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度はコロナ禍の規制が大幅に緩和され、主に海外における現地調査と学会活動を活発化させることができ、滞っていた研究事案の大部分を消化することができた。しかし、2020年度から2022年度の3年間に亘って滞ったコロナ禍の影響は大きく、データ分析の完成度に課題を残したため、その成果発表を延期する結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度となる2024年度は、以下の項目を重点的に遂行し、研究成果の啓蒙を促進する。 ①「母語による公教育の重要性」と「抽象的・論理的思考力」との相関関係をみるために選び収集したデータの統計的ネットワーク解析の完成度を再精査する。 ②多言語地域の教育事情と学習力の持続的発達に関する主要なデータ収集場所である発展途上国(フィリピン、ミンダナオ島)において、主に先進国の言語・教育事情との比較検討を通して普遍化した最終成果を講演し、現地の教育界の指導者との間の議論をより発展させる。 ③2024年度に開催される二つの世界大会 (「2024 AILA World Congress」と「ICL21- International Congress of Linguists(世界言語学者会議)」)にて本研究成果を発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度はコロナ禍の規制が大幅に緩和され、主に海外における調査と研究発表を中心に、滞っていた研究事案の大部分を消化することができた。しかし、2020年度から2022年度の3年間に亘って滞ったコロナ禍の影響は大きく、データの数理解析の最終精査とその成果発表を残す結果となった。 2024年度に繰り越した研究費は、本研究成果をより広く世界に向けて発信するため、既に研究発表することが決定している二つの世界大会(8月マレーシアにて開催されるAILA World Congress、又は9月ポーランドにて開催されるCIL21-世界言語学者会議)への出席に必要な旅費の一部に充当する。
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