研究課題/領域番号 |
19K21794
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
辻本 雅史 中部大学, その他の部局, 中部大学フェロー (70221413)
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研究分担者 |
榎本 恵理 びわこ学院大学短期大学部, その他部局等, 教授 (00779449)
尾崎 博美 東洋英和女学院大学, 人間科学部, 准教授 (10528590)
山崎 洋子 武庫川女子大学, 言語文化研究所, 嘱託研究員 (40311823)
弘田 陽介 福山市立大学, 教育学部, 准教授 (60440963)
楊 奕 中部大学, 現代教育学部, 准教授 (60580751)
山名 淳 東京大学, 大学院情報学環・学際情報学府, 教授 (80240050)
大地 宏子 中部大学, 現代教育学部, 准教授 (80413160)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 親性 / 生涯発達 / 子育て / マルトリートメント / 養育の社会化 / 子育て支援 / 親教育 / 非認知能力 |
研究実績の概要 |
各自が計画した個別研究を進め、その成果を共同研究会(8月に2回、2月2回、3月2回、いずれもオンライン)で発表して議論し研究成果の共有化をはかるとともに、随時、各自の専門学会や研究紀要等に、論文,学会発表,著書等で公表した。他方で、可能なアウトリーチ活動を進めた。 哲学的アプローチをとる山名はアリエスの「親の文明化論」や「教育の暴力論」の観点から親性の原理的考察を試み、弘田は日本伝統のあいまいさをともなう「みずから/おのずから」の思想を、自然概念から読み解き、そこから伝統的な親子言説を分析した。またパンデミックのなかでの子育て実践を、研究成果をもとに論じた一般向けの著書を出版し研究のアウトリーチ活動を行った。尾崎はhome概念とケアリング論を用いて教育の共同体生成の可能性を論じた。山崎は英国の保育・教育改革の過程と実践の現状・課題を詳細に明らかにするとともに、親性・ぺアレンティングを育む学校教育プログラムの調査結果を明らかにして、日本への視座を示した。 榎本は「子育て支援」の歴史と課題を、親性の観点から解明すると共に、紙芝居や昔話の語り等の伝承文化の中に、社会情動的スキル育成の契機をみいだした。 大地は昭和初期の「両親再教育協会」の歴史研究を通じて、戦前日本の親性教育の先駆を紹介した。楊は祖父母が育児を担う現代中国都市民の「隔世育児」に関する実態と幼児教育や家庭教育の研究の実態と政策を明らかにした。辻本は幼児教育研究助成の財団法人に関わり、研究助成審査と市民向けの幼児教育・家庭教育の講演活動を企画実施して社会的アウトリーチ活動を行った。 共同研究者の研究成果の実績の全体数は以下の通り。口頭発表(学会発表1を含む)15件、共著書3件、学術誌投稿論文5件、国際学術誌投稿1件(審査中)である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度はオンラインによる研究会を8月に2回、2月と3月に各2回、併せて6回実施して、各自の研究の途中経過報告を行い議論検討を進めるとともに、東京大学の遠藤俊彦、福井大学の友田明美の2名の研究協力者の研究成果に関する講演を依頼し、親性を考えるために、研究知見の共有を図った。 しかしCOVID-19パンデミックのために、海外渡航ができず、予定していた国内外のフィールド調査実施ができなかった。弘田と山名のドイツでの助産師や幼児教育関連の調査(弘田、山名)、英国の親性・ぺアレンティング教育のための学校カリキュラムの調査(山崎)、ケアリングとホーム概念の実践の具体相に関する米国調査(尾崎)、「隔世育児」と子育てにおける家族のかかわりと幼児教育への政策的対応に関する中国の調査(楊奕)など、いずれも実施できなかった。それを補うために、文献調査とともに、研究上のカウンターパートなどの協力を得て、オンラインでのヒアリングや必要な資料やデータの提供を依頼するなどして、不十分な部分をカバーしてきた。 さらに、当初の研究計画を大幅に修正したり研究主題の変更をしたりすることも余儀なくされた。たとえば山名は、直面する当面のパンデミックが教育にもたらす影響を、「カタストロフィ教育学」の観点から親性にどうつなげるのか、模索する研究を試み、弘田は日本の伝統的な自然概念が子育て言説にいかに組み込まれているか、思想研究を通じて親性解明に努め、山崎は英国の人間関係教育や性教育、健康教育の政策的変遷を解明するなど、いずれも研究計画の修正の試みである。その意味で、この困難な事態を打開する努力の結果、比較的順調に進展している榎本や大地の研究と合わせて、全体としては「やや遅れている」ものの、一定の進展は認められ、今後の努力で相応の研究成果を得ることは可能だといってよい。
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今後の研究の推進方策 |
研究会を4~6回程度開催し、個別研究の成果報告について議論するとともに、課題の関連する研究協力者を研究会にまねき、それらの知見に学び、研究成果の共有を図る。招聘する研究協力者は、研究者だけではなく、すぐれた教育実践者を招き、実践現場の実態等の情報提供とともに、本研究への実践現場からの批判的まなざしと研究を進める上での具体的な助言を求める。 COVID-19のためにこれまで実施できていない海外渡航調査を可能な限り行いたいが、もしそれが困難の場合は、すでに一定程度行っているように、研究計画を修正しながら、「親性生成」という本来の研究目的に近づくよう、努める。 最終年度として、研究成果の公表に取り組む。具体的には、学会発表、論文投稿(国際学会誌も含む)、著書出版のほか、講演や市民向けのシンポジウムなどにも積極的に参加する。併せて研究成果にもとづくアウトリーチ活動に力を尽くし、そこでの刺激を研究に戻していく。 本研究を通じて得られた成果を、各自が自らのテーマに即してまとめ、それらを全体として当初の目的に沿う形に整理して、研究成果報告書を作成しその公表に努める。 ただし本研究は、研究成果の公表で完結するものではなく、それを教育の現場、市民の子育ての現場に有効に届くものにしなければならない。そのために、教育現場の実践者との連携をはかり、研究と実践を往還する関係を構築していくことをめざしている。よってアウトリーチ活動にも積極的に努める。 なお、本研究と同一の研究代表者で、現在の課題をさらに発展させる研究を計画しており、それをめざした研究課題によって、2021年度科学研究費の研究助成[基盤研究(B)]に採択されている。それに発展的につなげることができるよう、さらに解明すべき研究課題を明らかにし、その解明のための方向性を意識して、研究のまとめを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度はCOVID-19パンデミックのために、海外渡航がまったくできず、予定していた海外のフィールド調査と情報の収集ができなかった。ドイツでの助産師や幼児教育関連の調査(弘田、山名)、英国の親性・ぺアレンティング教育のための教育プログラムに関する調査(山崎)、ケアリングとホーム概念の実践の具体相に関する米国調査(尾崎)、「隔世育児」と子育てにおける家族のかかわり方に関する中国の調査(楊奕)など、いずれも実施ができなかった。また共同研究者・研究協力者が集まって開催する研究集会はすべてオンラインで実施したため、そのための国内旅費もほとんど発生しなかった。以上の理由で、予定した国内外の旅費と謝金の大半を使うことができなかった。 2021年度の経費は、以上の調査の代わりになる文献調査のための書籍を購入する費用に充て、また得られなかった海外の情報を、研究上のカウンターパートなどの協力を得て収集するが、そのための必要経費と謝金に充てる予定である。 また本助成研究の最終年度につき、研究成果の公表のための学会発表や内外の学会誌に投稿するための経費(英語・ドイツ語の翻訳経費も含む)に使用する。また研究成果をまとめて作成する報告書の出版費用に充てる予定である。
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