「仮名71文字の習得に関わる要因を探る」ために、2つの研究を実施した(研究1、研究2)。対象児は年中児3名、年長児3名で、全例K-ABCⅡ「積み木模様」の評価点はSS10以上で、知的能力に問題は無かった。課題は仮名71文字の読み、視覚弁別、聴覚弁別、音韻処理課題(逆唱、削除、音韻復唱、モーラ数え)、言語課題(PVT、ITPA「言葉の類推」)である。その結果、年長児は仮名71文字のほとんどを読めることが分かり、先行研究を支持した。一方、同じ時期の年中児の仮名の習得状況には個人差があること、ひらがなの読みが出来る、出来ないは言語能力に左右されないことが分かった。また、ひらがなの習得状況にかかわらず、視覚弁別課題には問題が見られなかった。一方、その他の課題では違いが見られたが、仮名習得状況との関連性は明らかにされなかった。研究2では、dyslexia児と健常児を比較した。方法は小学2年生段階の読み書きの検査でdyslexiaの兆候があった児童の5歳時のデータと、健常児1名(5歳時)のデータを比較した。両者WISCやWPPSIで測定される知的発達に問題はない。課題は研究1と同様である。その結果、視覚弁別の課題の結果は両者に差はないものの、音韻処理課題においてdyslexia児は健常児と比較して劣っていた。一方、聴覚弁別の課題においてもdyslexia児の方が成績が悪かった。先行研究においては、dyslexia児の聴覚弁別能力については諸説あるが、音韻の粒が英語より大きいとされる仮名の習得に躓くといった、いわば中度~重度の音韻の問題を抱えると想定されるケースにおいては、聴覚弁別といった低次の処理能力にも問題がある可能性が示された。このことはdyslexia児の特徴である「言葉の聞き誤り」が多いといったこと、対象児の「似た音の文字を書き誤る」といった特性と関連するものと考えられた。
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