研究課題
快・不快は我々の意思決定の基本となる情動であり,これまでその神経メカニズムに関する研究が精力的に行われてきた。一方で,苦痛からの解放,すなわち安心感については,我々の行動を左右する重要な情動であり,ストレスと関連した行動的不適応とも密接に関連しているにも関わらず,その脳内メカニズムの研究はほとんど進んでいない。この問題を解決するため,本研究は,①動物モデルを用いて「安心感」を測定する行動課題を確立し,②脳内報酬系であり,ストレス耐性にも重要な役割を果たすドーパミンに焦点を当て,「安心感」を司る神経メカニズムを明らかにすることを目的とする。まず,音を条件刺激,嫌悪的な微弱電流を無条件刺激とする恐怖条件づけを行ったところ,動物は条件刺激が提示された際に恐怖反応であるフリージングを示すようになった。一方,ランダムなタイミングで微弱電流が提示されるが,音刺激(安全手がかり)が提示されている最中には嫌悪刺激が提示されないという安全条件づけ手続きを行ったところ,安全手がかりが提示されていない時と比較して安全手がかりが提示されている最中にフリージングが低下する傾向が認められた。次に,本研究の遂行に必要なドーパミン変化量の測定技術の立ち上げを行った。近年開発された蛍光ドーパミンセンサーを動物の脳内に局所的に発現させ,ファイバーフォトメトリ―法用いて観察したところ,動物の行動と関連した有意な蛍光シグナルの増加が確認された。
2: おおむね順調に進展している
聴覚刺激と嫌悪的な微弱電流を用いた恐怖条件づけと安全条件づけについて,基礎的な行動データを収集することができた。また,本研究の遂行に必須である蛍光ドーパミンセンサーを用いたイメージグ技術の立ち上げも着実に進んでいる。以上のことから,本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
安全条件づけにおける各種パラメーターを修正し,引き続き行動データを収集する。これにより,安全手がかり提示中の恐怖反応の低下がより明確になるように課題を改善することを目指す。また,蛍光ドーパミンセンサーを用いたイメージングを行うことによって,課題遂行中の動物の脳内におけるドーパミン放出動態についての解析を進める。さらに,光遺伝学を用いた神経活動操作技術を用いて,脳内ドーパミン放出と,安全条件づけ学習およびその表出との因果関係についても検討する。
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は異なったが,研究計画に変更はなく,前年度の研究費も含め当初予定通りの計画を進めていく。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Pharmacology, Biochemistry and Behavior
巻: 187 ページ: 172798-172805
10.1016/j.pbb.2019.172798.
Neurochemistry International
巻: 129 ページ: 104464-104452
10.1016/j.neuint.2019.104464.