研究課題/領域番号 |
19K21812
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
唐沢 穣 名古屋大学, 情報学研究科, 教授 (90261031)
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研究分担者 |
石井 敬子 名古屋大学, 情報学研究科, 准教授 (10344532)
奥田 太郎 南山大学, 人文学部, 教授 (20367725)
鶴田 早織 (塚本早織) 愛知学院大学, 教養部, 講師 (80794073)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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キーワード | 勤労意識 / 道徳観 / 道徳動機 / イデオロギー / 文化 / 社会規範 |
研究実績の概要 |
1. 日本人が「勤勉」について持つ素朴信念の内容を明らかにするため、自由記述データを収集し、テキストマイニングによる整理・分類を実施した。 2. 「勤勉」道徳の心理的基礎過程を明らかにするためのの実験的研究を3件、実施した。第1に、勤勉が「対自己」の道徳意識であるとする「道徳動機モデル(MMM)」の前提を検証した。怠慢な行為のシナリオを呈示して、これに対する非難の根拠として、「対自己」および「対他者・集団」の危害または不公正道徳基盤に基づく理由と「義務論的理由」のそれぞれが、説明に用いられる程度を比較した。結果は「対他者・集団」「義務論的理由」に比べて「対自己」動機による説明は行われにくいことが示した。これは、勤勉に関する文化的な認知様式の影響の可能性について、更なる研究の必要性を示唆している。 第2に、課題遂行における成功が、「努力」「才能」「運」のいずれに起因する時に、遂行評価および人物評価がより高くなるかを調べた。結果は「有能性」評価においては才能重視、人物の「温かさ」評価や社会的距離については努力重視の評価傾向を示した。「結果よりも過程を重視する」文化的な評価構造と合わせて、さらなる検証の必要性が示された。 第3に、努力重視と才能重視の違いを規定する要因として、道徳動機の種類に関する個人差変数の影響を調べた。その結果、この分析に適用可能な MMM質問紙尺度を開発することに成功した。 3. 人物評価に基づく道徳判断における心理過程の1つにその対象人物に対する共感、具体的には同情といった他者志向的感情の喚起やその他者の視点に立った心の状態の推測がある。共感を高めることによって適切な道徳判断に至る可能性を検証するために、共感を高める方法としての演劇経験の影響を調べた。結果から、約1時間の演劇経験によって認知的共感が高まり、その傾向は1週間後も続いたことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」で述べた通り、「道徳としての勤勉」に関する素朴理解の内容、道徳関連動機の作用、そしてこれらの文化的基盤に関する実証的知見は順調に蓄積されつつある。ただし、知見のほとんどは、日本で収集したデータに基づくものである。新型コロナ・ウィルスの影響もあり、文化間比較に基づく検証にまでは至っていない。また、心理学だけでなく倫理学をはじめとする規範論の枠組みに基づく議論を企図した当初の計画についても、実現に至っていない部分がある。
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今後の研究の推進方策 |
1年間の研究期間延長が認められたことにより、2022年度は国際比較研究を実施する予定である。また、新型コロナ・ウィルスへ対策に留意しながら、学際的な研究会の機会を増やし、理論的な基盤の拡充を図る。そして、学会等における成果の公表、さらには研究成果を論文化する作業を、よりいっそう進める。これらが実現すれば、当初設定していた研究目標を2022年度内に達成することが期待できると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ・ウィルスの影響により、当初予定していた共同研究のための海外渡航および国内学会等に伴う旅費に残額が生じた。また、対面形式での実験を実施することがほとんど不可能で、アウト・ソーシングによる参加者募集を行なったが、結果としてデータ収集に遅延が生じた。そのため実験実施の時期を延期する必要が生じ、当初予定期間内での使用が完了しなかった。
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