研究課題/領域番号 |
19K21815
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
畑中 千紘 京都大学, こころの未来研究センター, 特定講師 (30532246)
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研究分担者 |
梅村 高太郎 京都大学, 教育学研究科, 講師 (10583346)
河合 俊雄 京都大学, こころの未来研究センター, 教授 (30234008)
吉川 左紀子 京都大学, こころの未来研究センター, 特定教授 (40158407)
田中 康裕 京都大学, 教育学研究科, 教授 (40338596)
杉原 保史 京都大学, 学生総合支援センター, 教授 (50226453)
粉川 尚枝 京都大学, こころの未来研究センター, 特定研究員 (90828823)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | SNSカウンセリング / SNS相談 / 心理支援 / 企業における心理相談 / 地域支援 |
研究実績の概要 |
本研究は、近年運用が始められているソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を用いた心理相談について、専門的技法と機能的システムの開発および理論的基盤の構築を行うものである。2020年度には、実際に行われた相談の特徴を把握し、実態と課題を明らかにするために、匿名化されたログデータを臨床心理学的視点と認知科学的視点の双方から分析を行った。まず臨床心理学的視点から各事例を評定し、高評価事例と低評価事例に分けてその特性を明らかにした。そして、それらについて作成した感情語辞書に基づき、相談員と相談者それぞれの言語情報を認知科学的視点から分析した。その結果、高評価事例では相談者と相談員の間での同期がみられること、低評価事例では相談員が相談者に先駆けてポジティヴな方向に振れる傾向がみられることなどが明らかとなった。これらの結果は、SNSカウンセリングに来談する相談者の傾向・相談員に求められる専門的技法などを可視化し、専門的で質の高いで運用体制を整えるために活用された。 また、2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、非接触の心理的サポートの枠組みとして、SNS相談への注目が高まることとなった。こうした社会的要請を受け、SNSカウンセリングの早期社会実装に寄与するという本研究の目的にも鑑みて、自機関で学校および企業を対象としたSNS相談窓口を立ち上げた。これにより運用体制にまつわる課題が改めて浮き彫りとなったことに加え、SNS相談に対して相談者が持ち得る不安や抵抗、潜在的なニーズが明らかとなってきた。また、緊急事態宣言下において実施された相談においては、感染についての不安が相談のきっかけとなってはいても、話をする中で個人的な心理課題に取り組まれる事例が多くみられた。このことは、マイナスな状況下においてもなお、人が心理的に成長しようとする可能性を示唆しており、今後も検討を続けたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的として掲げていた、(1)数量的分析によって、SNSカウンセリングの利用実態と現在の課題を明らかにすることおよび利用者と事例の特性を分析すること、(2)個別事例を臨床心理学的観点から分析することによって、カウンセラーの専門的技法を整理・抽出し、成功例と失敗例を明らかにすること、については、既存の相談事例データに基づき分析が十分に進められている。これらの成果について、これまでに関連学会での口頭発表を7件行うと共に、1件の一般公開シンポジウムの開催、さらに専門家向けの書籍2冊を発刊した。加えて、企業や教育機関との事業連携化も具体的に進められ、自機関での相談窓口開設につながったことは成果の一つである。最終年度となる2021年度は、これらの分析をコロナ禍において実施された相談事業にも実施しながら理論的基盤を構築しつつ、2020年度より自機関で開設した相談窓口での実践から得られる知見をさらに検証していく。これにより、SNSカウンセリングの意義と限界を明らかにしながら、SNSカウンセリングの機能的運用システムの構築を検討していく予定である。 以上のように分析は十分に進められているものの、2020年度はコロナ禍の影響を受け、学会が不開催となるなど、発表の機会が大部分失われたことに加え、他の専門家との議論や成果還元の機会が激減することとなった。そのため、ごく小規模での地域企業によるオンライン研究会や専門家に向けた動画配信など、限られた機会を捉えて発信することが中心となった。2020年度に得られた成果については、今後開催が見込まれる学会や会議での発表、書籍や論文等での発表として公表していくことを予定している。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルスの蔓延によって人々の生活や心理的状況が一変したことに伴い、SNS相談を取り巻く状況も大きく変化した。特に、非接触型でアクセスがしやすいSNSカウンセリングは、コロナ禍においてもさらなるニーズの高まりを見せている。このような状況を受けて、今後の研究は、当初予定していた計画に加え、コロナ禍およびアフターコロナの状況における人々の心理的反応の特徴や変化について集合的に捉え、SNSを用いた新しい心理的サポートの可能性を探ることを目的とする。 具体的には、相談事業を行う団体と連携し、コロナ禍において実施されたSNS相談事業の相談ログデータについて分析を実施する。予定では、匿名化された状態で、およそ数千事例の相談ログデータを分析することが可能であるため、これまでの方略を生かして、臨床心理学的な質的分析と、機械学習を用いた認知科学的な手法を組み合わせて検証する方針である。分析の視点としては、コロナ禍において実際にどのような相談が寄せられているかをトピック分析によって実施し、マクロ的な視点からみて賦活されるテーマの展開、相談時期によるトピックの変遷や時間帯による違いから相談者のニーズを探る予定である。加えて、リピーター相談者の事例や中断ケースの特徴などを臨床心理学的に分析することで、心理的負荷からの回復プロセスにSNSカウンセリングがどのように貢献していくかなどを検討する予定である。 これによって、コロナ禍における心理的サポート体制の理論的基盤をつくると共に、今後の災害時などの緊急事態下においてもSNSを用いた支援に活用することが可能となるだろう。加えて、有効性の高い対象者や対応時期の重要性、相談員の臨床的姿勢のあり方などについて検証を行うことにより、コロナ禍およびアフターコロナの状況におけるSNSカウンセリングの機能的運用システムについての議論の深まりも期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度には、新型コロナウイルス感染症の影響により、予定していた国際/国内学会が軒並み中止となり、参加費や旅費の支出予定が大幅に計画と異なることとなった。差額が生じた分については、2021年度における新たな分析計画(コロナ禍の相談事業の分析)に充てる予定である。
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