研究課題/領域番号 |
19K21816
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
河合 俊雄 京都大学, こころの未来研究センター, 教授 (30234008)
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研究分担者 |
梅村 高太郎 京都大学, 教育学研究科, 講師 (10583346)
畑中 千紘 京都大学, こころの未来研究センター, 特定講師 (30532246)
田中 康裕 京都大学, 教育学研究科, 准教授 (40338596)
粉川 尚枝 京都大学, こころの未来研究センター, 特定研究員 (90828823)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 心理療法 / レジリエンス機能 / 効果研究 / メタ分析 / 国際比較研究 |
研究実績の概要 |
本研究では、中堅~熟練の臨床心理士心理士に対し「過去5年以内に担当した事例で最近終結したものから8つ」の事例提供を依頼し、2019年度までに195事例の収集と評定を行った。事例の内容を組み込みつつ、第三者による客観的な評定を行うため、各事例提供者を招聘し、申請者らと共同した事例検討会を25回実施した。 また、2019年度は本研究から得られた知見を含めた学会発表を4回行い、論考を1編掲載した。補助金は主に、研究実施のための事例提供者への謝金、成果発表のための旅費等に用いた。 1. 心理療法のプロセスをメタ的に分析し、来談者の変化の契機となった要因について複合的な視点から検討した。本研究では、来談者の心理的問題の変化だけでなく、就職や結婚といった「現実面での変化」、夢や箱庭における「イメージの変化」といった、多層的な変化が生じることが明らかになった。また、来談者自身が心理療法の外で行う主体的なアクションや、偶然の出来事の連鎖といったコンステレーションも変化の契機となることが示唆された。 2. 来談者本人の心理的問題の変化が、個人からその周囲の人々へ波及することも明らかになった。共同体意識が薄れ、個人がコミュニティから離れた現代でも、こうした波及が見られたことに着目し、日本人的なこころのレジリエンス機能について文化・精神性の視点から論じた。また、現代では薄れた共同体機能を担うような心理療法の役割についても言及した。 3. 心理療法のプロセスにおける身体症状の変化の重要性も明らかになった。そこで、こころの変化のポイントをより包括的に理解するため、身体疾患を主訴とする患者への心理療法事例を、心理的問題を主訴とする事例と比較検討した。身体疾患を主訴として開始した心理療法事例には、情緒やパワーを抑えていたり、主体性や人間関係の繋がりが薄いといった異なる心理的問題が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を通じて得られた知見を含め、学会発表を4回行い、論考1編を掲載することができた。また、事例の評定のため、昨年度までに25回の事例検討会を実施し、申請者らだけでなく臨床経験豊富な心理療法家を交えて、単純な症状消失を超えたこころの回復プロセスに寄与する事象や成長可能性、変化を妨げる要因等を検討することができた。 また、本研究は300以上の心理療法事例を収集し、パイロットスタディから得られた指標に基づいたメタ的な分析を行うことを計画するものだが、昨年度までに分析指標が確立し、分析事例も195事例を既に収集することができた。次年度についても、引き続き事例提供者への依頼を開始しており、サンプル数の確保に目処が立っている。ただ、身体疾患を主訴として開始した心理療法事例は、心理的症状を主訴とする事例に比べて事例提供者が少ないことから、「こころ」を無意識的・潜在的な次元を含めた包括的なものとして捉え、こころと身体の関連について検討するためにも、今後よりサンプル数を増やしていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
事例提供者の確保は順調に行えているが、上述のように身体疾患を主訴として開始した心理療法事例のサンプル数が少ないため、今後収集事例を増やし、心理的症状を主訴とする事例との比較検討を試みたいと考えている。また、心理療法のプロセスを前期・中期・後期に分け、各期で特徴的な来談者の変化の契機となった要因を明らかにするプロセス研究も、次年度は更に行っていきたい。こうした心理療法事例のメタ視点からの分析を通して、こころの状態が回復・変化するプロセスを明らかにし、これまでの研究結果についても引き続き学会発表や論文の形で公表していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実施のための事例提供者への謝金などの経費は、研究代表者の割り当て経費でカバーしたために、4名の研究分担者が研究発表、個別の調査のために使用するはずの経費が次年度に繰り越しとなった。これらの資金は、4名の研究分担者が、関連する調査、研究発表のために次年度使用する予定である。
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