研究課題/領域番号 |
19K21816
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
河合 俊雄 京都大学, こころの未来研究センター, 教授 (30234008)
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研究分担者 |
梅村 高太郎 京都大学, 教育学研究科, 講師 (10583346)
畑中 千紘 京都大学, こころの未来研究センター, 特定講師 (30532246)
田中 康裕 京都大学, 教育学研究科, 教授 (40338596)
粉川 尚枝 京都大学, こころの未来研究センター, 特定研究員 (90828823)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 心理療法 / レジリエンス機能 / 効果研究 / メタ分析 / 国際比較研究 |
研究実績の概要 |
令和2年度は特に,クライエントが心理的症状を主訴として開始した心理療法事例(心理症状群)と,身体疾患を主訴として開始した心理療法事例(身体疾患群)との比較を主として,中堅~熟練の臨床心理士に対し「過去5年以内に担当した事例で最近終結したものから8つ」の事例提供を依頼し,心理療法プロセスの継時的変化の分析を導入して検討を行った。心理症状群は203事例,身体疾患群は40事例が,令和2年度までに収集されている。また,各事例提供者を招聘して,申請者らと共同で実施した事例検討会は,オンライン開催も含め,令和2年度に新たに6回が実施され,計31回となった。 令和2年度はコロナ禍の影響を受け,学会等が不開催となることも多かったが,本研究から得られた知見について,国際学会を含めた2つの学会で発表を行った。また,本研究がテーマとする心の逆説的変化に関する英語論考も2編が掲載され,書籍も1冊が出版された。補助金は主に,研究実施のための事例提供者への謝金,備品購入などに用いた。
加えて,新型コロナウイルスの感染拡大に伴い,コロナ禍における心理的反応,精神的側面への影響が,現在,社会的にも注目されていることを踏まえ,本研究課題の着想背景にある震災時の心のケア活動の経験から,今回のコロナ禍におけるクライエントの反応を分析することも,人の心の回復・成長可能性の解明に繋がるかと考え,コロナ禍で心理療法を継続しているクライエントにどのような変化が見られたか,令和2年度から新たにパイロットスタディを開始した。パイロットスタディの結果からは,コロナ禍の受け止め方はクライエントにより様々であり,抑うつ感のようなネガティブな影響だけでなく,行動制限によって家族といる時間が増え,家族関係がよくなったなど,ポジティブな影響も生じていることが示唆され,今後も本調査を継続実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究もコロナ禍の影響を受け,事例提供者の招聘に制限が生じたりなど,データ収集に困難が生じ,進捗がやや遅れることとなった。また,学会が不開催となるなど,他の専門家との活発な意見交換や,成果還元の機会も減っている。しかし,オンラインでの事例検討会や学会発表等を活用しながら,令和2年度は国際学会を含めて学会発表を2回行い,英語論考2編の掲載と書籍1冊の出版を行った。また,令和2年度までに計31回の事例検討会を実施し,申請者らだけでなく臨床経験豊富な心理療法家を交えて,心の回復プロセスに寄与する事象や変化を妨げる要因等を検討してきている。 また,コロナ禍が心に及ぼす影響についても,申請者らの間で令和2年6月初旬に94事例,令和3年1月下旬に115事例を収集して,パイロットスタディを行ってきた。この調査は,コロナ禍が心に及ぼす影響を検討することに加え,コロナ禍という危機的状況からの心の回復プロセスを可視化し,心が持つ回復と変容の可能性を明らかにすることも目的としている。この調査についても今後対象を広げ,サンプル数を増やしていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに,心理症状群については203事例を既に収集・評定しているため,次年度は,引き続き身体疾患群のサンプルを増やし,両群の比較からネガティブな状態が身体に現れる場合と精神面に現れる場合の異同について,現代の傾向として強まっている身体化・解離などの心理的問題も含めて,明らかにしたいと考えている。これらの研究結果は,引き続き学会発表や論文の形で公表していく予定である。 また,コロナ禍で心理療法を継続しているクライエントの事例についても,本調査として申請者以外の臨床心理士らからデータを収集し,クライエントの心理的問題や現実生活に,コロナ禍でどのような影響・変化が生じているのかを検討していきたい。コロナ禍がクライエントに及ぼした影響に関する研究は,コロナ禍からの社会全体の回復に向けても有効な視点を提供し,社会貢献に繋がるものと期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
上述の通り,コロナウイルス感染拡大の影響から,本研究でも事例提供者の招聘・データ収集に制限が生じたため,事例提供者への謝金支払い回数が昨年より少なくなり,謝金に当てるために予定していた経費が,次年度の調査に繰り越しとなった。加えて,学会の不開催やオンライン実施により,申請者らの研究発表時の旅費等の経費も次年度に繰り越した。 また,令和2年度の事例提供者への謝金などの経費は,研究代表者の割り当て経費でカバーしたことに加え,研究分担者においても,個別の調査のために使用するはずの経費が,コロナ禍の影響から同様に次年度に繰り越しとなった。これらの資金は,研究分担者が,調査,研究発表のために次年度使用する予定である。
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