研究課題/領域番号 |
19K21820
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研究機関 | 大正大学 |
研究代表者 |
谷田 林士 大正大学, 心理社会学部, 准教授 (50534583)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 集団主義 / 事象関連電位 / 協調性 / 調和追求 / 排除回避 |
研究実績の概要 |
近年、日本社会は集団主義的で、新たな関係を形成する機会がほとんどない関係流動性(Yukiら, 2007)の低い社会として相対的に特徴づけられている。しかし、新たな関係形成の機会を増大させるインターネットやSNSの普及や、希薄化に代表される対人関係の質の変化が言及されているものの、現代社会における変化が集団主義的な社会に及ぼす影響を論じた研究は数少ない。本研究の目的は、集団主義的な行動傾向を生起する認知過程を脳波の事象関連電位(ERP)を用いて測定し、その個人差と同性・異性を含む対人関係やSNSを介した関係構築力との関連を探索的に分析することで、現代の日本人の対人関係の性質についての理解を深めることにある。 集団主義的な社会では、関係流動性が低いため、特定の他者との継続的な関係を形成し、関係外の他者に対して排他的に振る舞うことが適応的である。Hashimoto & Yamagishi(2013)は、集団主義的な社会において、特定の他者の気持ちを察したりしながら調和的な関係を構築するという「調和追及」としての協調性と、周囲の他者から排除されないように振る舞うという「排除回避」としての協調性が適応的な価値を有すると考え、それぞれを独立として測定する尺度を開発した。本研究では、これら2つの協調性を導くそれぞれの認知過程を実証するために、協調性と関連のある課題で誘発される事象関連電位を測定し、それぞれの協調性尺度との関連を検討することを目的としている。具体的には、本研究では、調和追及の協調性を導く認知過程を検討するために、表情刺激を用いたオドボール課題でP300の事象関連電位の測定、及び排除回避の協調性を導く認知過程を検討するために、サイバーボール課題でfERN(フィードバックエラー関連陰性)の事象関連電位の測定を行い、2つの協調性尺度と関連を分析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調和的な関係を構築するための協調性は、相手の情動を察するために表情変化に対しても敏感であることが予測される。本研究では、表情刺激を用いたオドボール課題を実施し、ニュートラル表情の標準刺激と情動表出表情のターゲット刺激をランダムに呈示していき、ターゲット刺激が呈示された際に反応を求めた。情動表出のターゲット刺激に対するP300を表情変化に対する注意深さの指標とし、尺度で測定される協調性との関連を検討する実験を、防音機能を高めた電磁シールドルームで実施した(以下、高精度ERP測定)。 さらに、周囲の他者から排除されないように振る舞うための協調性についても高精度ERP測定を行った。他者からの排除として、サイバーボール課題で相手からボールが回ってこないという拒絶時のERPを測定した。期待される報酬が得られなかった時に検出されるfERN(フィードバックエラー関連陰性)を他者からの排除を受けた際のネガティブな知覚の認知指標として検討する測定を行った。本年度はプレテストとして15名の実験参加者のデータを取得した。 本研究では、協調性を導く認知過程を検討するだけでなく、日本の対人ネットワークの性質を認知過程の個人差を用いて探索的に検討を行うことを目的としている。住居地の流動性から算出された関係流動性(岩谷・村本, 2017)を用いて、新しい関係形成の機会の多寡が異なる3つの都市で事象関連電位を測定する予定である。この測定実験では、電極自体にアンプが内蔵され、装着も数分程度で完了するドライ型のアクティブ電極を使用する(以下、簡易ERP測定実験)。このアクティブ電極の脳波計を導入したが、7月に採択が決定されたことや、脳波計の納品が11月にずれ込むなどのことが生じたが、プレテストが順調に進んだこともあり、進捗状況を「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、本務校のシールドルームの脳波測定室にて、事象関連電位を測定する。また、住居地の流動性から算出された関係流動性を用いて、新しい関係形成の機会の多寡が異なる複数の都市の大学(福井県と長野県の大学)にて事象関連電位を測定する予定である。後者の測定実験に関しては、2020年度は低流動性環境として福井県の大学での実施を予定している。ただし、2020年度の開始時より、新型コロナウィルス感染症拡大防止を目的とした緊急事態宣言が出され、解除後も密室空間、密集場所、密接場面を避ける行動が推奨されることから、脳波測定実験が可能かどうかを慎重に判断する必要が生じる。所属学会から実験実施に関わる情報を得ながら適切な判断を心がけ、また、大学から実施の許可を受けて測定実験を行うこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
おおむね当初の計画に従って予算の執行を行ったが、令和2年度の実験実施に向けた他大学での研究打ち合わせが次年度での開催になったため、旅費の使用額が予定を下回り、調整を図ったが、少額の金額が余剰となった。この金額は、次年度の物品費に加算し、実験実施に必要な消耗品の購入に充てる予定である。
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