研究課題/領域番号 |
19K21820
|
研究機関 | 大正大学 |
研究代表者 |
谷田 林士 大正大学, 心理社会学部, 准教授 (50534583)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2023-03-31
|
キーワード | 協調性 / 集団主義 / 認知過程 / 事象関連電位 |
研究実績の概要 |
集団主義的な社会では、特定の他者との継続的な関係を形成し、関係外の他者に対して排他的に振る舞うことが適応的である。Hashimoto & Yamagishi(2013)は、集団主義的な社会において、特定の他者の気持ちを察したりしながら調和的な関係を構築するという「調和追及」としての協調性と、周囲の他者から排除されないように振る舞うという「排除回避」としての協調性が適応的な価値を有すると主張している。本研究の目的は、これら2つの協調性を導くそれぞれの認知過程を実証するために、協調性と関連のある個別の課題で誘発される事象関連電位を測定し、それぞれの協調性尺度との関連を検討することを目的としている。さらに近年、SNS等を介して地理的制限を受けずに人間関係を形成する機会が増大しており、これらICTの普及が集団主義的な社会に及ぼす影響を探索的に検討することを第二の目的としている。2つの協調性に関連する事象関連電位(ERP)を測定し、その個人差と同性・異性を含む対人関係やSNSを介した関係構築能力との関連を探索的に分析することで、現代の日本人の対人関係の性質を明らかにする。
令和3年の当初の計画では、住居地の流動性から算出された関係流動性を用いて、新しい関係形成の機会の多寡が異なる3つの都市の大学で、ドライ型のアクティブ電極を用いた簡易の事象関連電位を測定する予定であったが、予定していた全ての実験の実施ができなかった。新型コロナ感染症拡大防止のための緊急事態宣言の発令があり、都道府県間の移動の自粛が要請されていたためである。また、前年の令和2年度から電極装着時に実験者と参加者の接触を回避することができないため、事象関連電位測定実験は実施を見送ってきた。そのため、令和3年度には実験参加者自身で簡易型の脳波計を装着し、認知課題を遂行する予備実験を実施した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究の目的は、特定他者との継続的な関係の形成を支える集団主義的な協調性についての認知過程を検討することにある。調和追及を導く認知過程を検討するために表情刺激を用いたオドボール課題、排除回避の認知過程を検討するためにサイバーボール課題を実施し、関連が予想されるP300やfRENの事象関連電位を測定する実験を予定していた。さらに、住居地の流動性から算出された関係流動性を用いて、新しい関係形成の機会の多寡が異なる3つの都市の大学で、ドライ型のアクティブ電極を用いた簡易の事象関連電位を測定する予定であった。しかし、新型コロナ感染症拡大防止のための緊急事態宣言の発令などがあり、対面接触を回避するために、事象関連電位の測定実験が実施できず、都市間移動の自粛もあり比較実施に至らなかった。そのため、研究の進行が大幅に「遅れている」との判断に至った。
上記の理由もあり、本年度は簡易型としてドライ型アクティブ電極を用いた事象関連電位の予備実験を実施した。本実験では装着時の実験者と参加者の接触を回避するために、実験者と参加者を同時に遂行する1名が参加する測定実験であった。ドライ型のアクティブ電極を自ら装着し、表情刺激を用いたオドボール課題時のP300の測定を行った。この実験では、同一の実験者・参加者が、1日2回のオドボール課題を実施し、5日間かけて合計10試行の課題時のP300を測定した。実験の目的は、簡易測定であるため測定エラーを多く含むとされるドライ型アクティブ電極を用いた測定結果の一貫性を検討することにあった。ターゲットの表情刺激に対してP300が有意に活性していたが、一貫性の指標として用いたICC(級内相関係数)においては、要再考とされる0.6以下の数値であった。1名の参加の結果であるため、次年度以降に同様の実験を実施し、複数測定時の一貫性が見られるかどうかを検証する。
|
今後の研究の推進方策 |
研究期間を1年延長し、延期している事象関連電位測定の実験を予定しているが、実験実施に向けて万全な感染予防対策を講じる予定である。
本研究の特色は、表情変化に対する注意深さや排除を受けた際のネガティブな知覚といった認知過程を事象関連電位から検出し、集団主義において適応価のある協調的な心理特性に関与しているかどうかを検討することにあるため、事象関連電位の測定が重要な研究の従属変数となる。しかし、新型コロナウィルス感染症拡大を受け、令和2年度から3年度にかけて、実験者が参加者を兼ねて実施した予備実験を除き、事象関連測定実験が実施できなかった。今後は、新型コロナ感染者数の動向を踏まえながら、令和2年度に予定していた高精度な事象関連電位の測定を用いた実験を実施する。この高精度な測定に関しては、電極装着時に実験者と参加者の身体的接触が不可避であるため、感染拡大に転じた場合には、簡易版事象関連電位の測定実験を優先的に実施する。簡易測定ではドライ型のアクティブ電極を用いるため、電極の装着時間が短く、実験者と参加者の接触が調整のみの短時間に限定されるためである。これらの実験により測定されたP300やfRENなどの事象関連電位と協調性尺度との関連を分析することが今年度の研究内容となる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度に使用額が生じた理由は、新型コロナウィルス感染症拡大防止するための緊急事態宣言の発令などにより、令和2年度及び、令和3年度に実施を計画していた事象関連電位測定実験を全て中止したためである。 さらに、居住地域に基づいた関係流動性が異なる3つの地域において、ドライ型アクティブ電極を用いた事象関連電位の測定実験を実施する予定であったが、緊急事態宣言下においては、都道府県間の移動も自粛が要請されていたため、この簡易版の事象関連電位の測定実験も中止した。
そこで、本研究では研究期間の1年延長を行った。次年度に事象関連電位の測定実験を実施を予定しているためである。上記の理由から、測定実験実施に関わる人件費と、他の地域での実験実施に向けた旅費などを次年度に繰り越しする。実験参加者の謝金を主な支出とする。
|