研究課題/領域番号 |
19K21828
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中島 啓 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 教授 (00201666)
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研究分担者 |
荒川 知幸 京都大学, 数理解析研究所, 教授 (40377974)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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キーワード | 頂点代数 / 4次元超対称性場の量子論 / ゲージ理論のクーロン枝 / Argyres-Douglas理論 / W代数 |
研究実績の概要 |
中島は、de Campos Affonsoの導入した対称弓箭多様体について、古典型のアファイン・リー環に対応する箙ゲージ理論のクーロン枝、と一致することの証明を目指して、その性質を検討した。アファインA型のときは、中島と高山が以前に証明した結果であり、その一般化である。これは、古典型アファイン・リー環の場合に幾何学的佐武対応を証明することへ向けての、必要な最初のステップと考えられる。幾何学的佐武対応が証明されれば、昨年度までMuthiahとの共同研究で調べていた、同変交叉コホモロジーの余茎の同定を、アファインA型から古典型に拡張することは、新たな議論は必要ないと考えられる。荒川により指摘された頂点代数のコセット模型との関係についても同様に成立すると考えられる。 また、直交斜交箙ゲージ理論のクーロン枝について、FinkelbergとHananyとの共同研究を開始した。アイデアは、弓箭多様体から対称弓箭多様体を作るときと同じように、対合に関する固定点を取ることである。ただし、対称弓箭多様体の定義に用いられるものとは異なる対合を用いる。直交斜交箙ゲージ理論のヒッグス枝は、A型の場合は古典型のべき零軌道の閉包と、別の軌道の横断片の交叉になっていることが知られており、対応するクーロン枝もべき零軌道に関係すると期待することは自然であった。しかし、直交群の場合には、べき零多様体をクーロン枝として実現できるのに対し、斜交群の場合にはそのような直交斜交箙ゲージ理論の例が見つからないなど、通常の箙ゲージ理論のクーロン枝とは異なる現象を観察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績で述べた対称弓箭多様体と古典型アファイン・リー環の箙ゲージ理論のクーロン枝の一致の証明について、アファインA型のときに現れなかった新たな困難は、対称弓箭多様体が一般には期待されるもの以外に既約成分を持っていることである。これを克服するために、対称弓箭多様体の部分特異点解消を考え、その連結成分を調べた。これは期待する性質を持つことが分かったので、証明ができることが期待できる。また、部分特異点解消は、ゲージ理論のフレーバー対称性がクーロン枝に導くものと同定できると期待される。この特異点解消は、箙多様体への対合の定義に基づいている。 また、研究実績の後半で述べたように直交斜交箙ゲージ理論のクーロン枝を同定するために、弓箭多様体に新たな対合を導入した。一致することを証明するために対合の固定点集合が期待すべき性質の証明は完成していないが、弓箭多様体を定めるときに必要なデータである弓箭図式を,与えられたゲージ理論に対してどのように与えればよいかの考察を行った。これは物理学者のHananyがFengと以前に行った研究を、数学に翻訳する作業であり、O3ブレーンを弓箭多様体の固定点集合に対応させることに他ならない。弓箭多様体で数学的に証明されたHanany-Witten transitionを対合の固定点集合についても成立していると仮定して固定点集合の解析を行うと、クーロン枝の知られている例を再現できることを観察した。これは、Feng-Hananyの単なる翻訳ではなく、それが正しいことの別の意味でのチェックであると考えることができる。
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今後の研究の推進方策 |
直交斜交箙ゲージ理論のクーロン枝を、弓箭多様体の新たな対合に関する固定点集合と同定するためには、後者についていくつかの性質、特に可積分系の構成とその平坦性の証明、さらに余次元2の部分を除いてクーロン枝と同型になることをチェックする必要がある。これらの性質は、弓箭多様体、対称弓箭多様体の場合にはチェックできているので、同様の証明を試みる。 対称弓箭多様体の部分特異点解消は、箙多様体への対合の定義に基づいている。Liは、箙多様体の対合を用いて対称箙多様体を導入した。したがって対称弓箭多様体は対称箙多様体と密接に関係している。また、直交斜交箙ゲージ理論との関係で考察した弓箭多様体の新たな対合も、Liの考えた対称箙多様体と関係していると期待される。このLiの研究は、量子対称対の表現論との関係に動機付けされたものであり、クーロン枝の量子化が量子対称対と関係することが期待できる。ただし、古典型アファイン・リー環の箙ゲージ理論の場合は、クーロン枝の量子化はシフトされたアファインヤンギアンの商となることが分かっているので、これを量子対称対の枠組みで理解することは、今後の課題である。 また、直交斜交箙ゲージ理論については、ヒッグス枝として現れる古典型のべき零軌道と横断片の交叉については、その量子化は有限W代数として知られている。ヒッグス枝の量子化とクーロン枝の量子化の間には、3次元ミラー双対性とよばれる、Koszul双対性があることが、一般に期待されているので、量子対称対と有限W代数の間に何らかの関係があることになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年9月に海外での研究集会に参加して、幾何学的表現論について研究連絡を進めようと考えていたが、コロナウィルス感染症の影響で集会が中止になった。このため次年度7月に開催される国際数学者会議のサテライト集会に参加し、幾何学的表現論について研究打合せをすることにした。
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