研究課題/領域番号 |
19K21839
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 卓 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (70354214)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | quantum skyrmion / neutron scattering / high energy resolution / inelastic scattering |
研究実績の概要 |
スカーミオンとは連続場中のトポロジカル欠陥であり、歴史的には非線形古典場の理論にその端を発する。2009 年にカイラル磁性体 MnSi のスピンテクスチャーとして観測されるに至り磁性物理学の中心的課題の一つとなった。磁気スカーミオンはトポロジカル保護という特異な性質を持つため、その生成や消滅の起原から情報伝達応用までの広い範囲で大きな注目を集め、現在精力的に研究が進められている。これまでの研究から磁気スカーミオンは長周期磁気構造を基底状態にもつ種々の磁性体において有限磁場・有限温度で形成されることがわかっており、熱揺らぎにより形成するトポロジカルスピン構造であると理解されている。一方で、量子磁性体中においては従来型の熱力学的な磁気スカーミオンとは異なる量子力学的準粒子としてのスカーミオンを考えることができる。本研究の目的は磁場中高エネルギー分解能中性子散乱を駆使し量子スカーミオンを実験的に発見することである。 研究計画2年目となる2020年度においては、初年度の研究結果に基づき Yb-(Ni,Ru)-(Al,Ge) 系金属間化合物に絞って研究を進めた。2020年度においては新型コロナ感染症の拡大に伴い中性子散乱実験実施が比較的困難であったため、新物質探索やすでに得られているデータ解析を中心に研究を進めることで研究の遅延を最小限に食い止めた。具体的には Yb 系金属間化合物物質に関して、極低温における磁気構造等の情報を得るべくすでに得られている中性子弾性散乱実験結果の解析を進めた。また、同時に Yb 系金属間化合物並びにイオン結晶物質の六方晶系新物質探索を進めた。前者では無磁場でのおおよその磁気構造の決定に成功、後者に関しては複数の候補物質を見出すことが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要に記したとおり、2020年においては新型コロナ感染症の拡大に伴い内外での中性子散乱実験実施が困難であったこともあり、本研究計画の最終目標である量子スカーミオン探索実験を実行することは出来ていない。この意味で研究計画はやや遅れている。しかしながら、初期に予定していたCu2OSeO3 に比較して実験可能性が格段に上がると考えられる Yb 系候補物質を複数見出したこと、およびその中の2物質に関しては低温での磁気構造・相関の詳細に関する中性子散乱実験データ解析が進んだことは研究の進展として一定の評価ができるものと判断できる。 総合すると、新型コロナ感染症拡大の影響により多少進展に遅れは見られるものの、当初の予定とはかなり異なる進展がみられているなど、挑戦的研究として想定される進展を見せていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度も前半は新型コロナ感染症の影響下にあり、中性子散乱実験は限定的となると想定される。そこで、これまでに得られている Yb 系候補物質の極低温バルク物性を詳細に検討し、これらの中で量子スカーミオンの可能性を探る。同時に、バルク物性測定結果を踏まえ中性子散乱用試料環境設計および製作を進める。加えて、新物質に関する実験ということで、当初の研究計画からはエネルギースケールが多少異なる可能性があるため、使用分光器および実験手法に関しても詳細に検討する。また、初年度に実施した中性子実験の結果は解析がほぼ終了しているため2021年度の早い時期に論文投稿する。2021年度後半に新型コロナ感染症が収束した暁には、それまでにバルク測定評価が終わっているであろう候補物質群の中性子非弾性散乱実験を開始する。中性子散乱実験に関しては海外施設の利用が極めて重要であるが、万が一2021年後半にも海外渡航が再開されない場合は、J-PARC および最近再稼働した国内の研究用原子炉JRR-3を中心に研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実績の概要に記したとおり、2020年度は新型コロナ感染症拡大のため海外の中性子散乱実験が不可能になった上、国内の実験もかなりの制限が加わった。そこで、研究の中心を大学実験室における新物質探索とその極低温バルク測定に設定した。このため、当初予定していた中性子散乱実験用経費を次年度使用とすることとした。また、精密磁場制御試料セルに関しては当初試料として想定していたCu2OSeO3に対してのものであり、Yb 化合物等の新候補物質に対しては再設計を行う必要がある。2020年度はコロナ禍で使用可能な中性子分光器の確定が出来なかったためこの設計を終了することが出来なかったが、2021年度早期に設計および製作をするため次年度使用とすることとした。
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