研究課題/領域番号 |
19K21844
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
伏屋 雄紀 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (00377954)
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研究分担者 |
勝野 弘康 北海道大学, 低温科学研究所, 博士研究員 (70377927)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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キーワード | チューリング・パターン / ビスマス単原子層 / 結晶成長 / パターン形成 / 反応拡散方程式 / 創傷治癒 |
研究実績の概要 |
本研究最大の挑戦であった,単原子層の微視的有効模型からチューリング・パターンを得ることに前年度成功した.本年度はまずその成果をまとめ上げ,Nature Physicsから出版した.その成果を国際学会(2件),国内学会(2件)で口頭発表した.また,国際セミナー,国内セミナーでも招待講演を行った.更に前年度までの研究を発展させ, (1)我々が構築した三種の原子間力からなる単原子層の有効模型に含まれる変数を調整することで,様々なチューリング・パターンが現れることを明らかにした.当初目的であった,量子ドットや量子細線型のパターン(幅 1nm 程度)を実際にシミュレーションで得た.ドメイン構造を取る場合は,パターン形成から十分長い時間が経過した後,ドメイン境界が非常に短い時間で動き,最終的には単一相になることを明らかにした. 本研究の主たる当初目的は達成されたが,研究をさらに発展させるべく,次の研究を実施した. (2)より微視的な理論からチューリング・パターンを導くため,分子動力学計算コードの開発を行った.二次元系において,基板原子と吸着原子の2種類が蜂の巣構造を安定的に取る条件を探り出した. (3)これまでの我々の研究により,従来のソフトマターではなく,ハードマターでもチューリング・パターンが生成されることがわかった.このことは,本研究が扱った単原子層以外にもチューリング・パターンが現れ得ることを強く示唆している.その新たな対象として,(i) 第一種超伝導体の中間状態,(ii) ビスマス骸晶,を具体的に取り上げ,その有効理論の構築を試みた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画で掲げていた(1)原子スケールでの現実的な模型からチューリング・パターンの理論を創出する;(2)「拡散による自発的対称性の破れ」という概念を固体物理学に初めて導入する;(3)原子スケールのチューリング・パターンを利用し,全く新しいナノデバイス作製技術を創成する,の3点については基本的な部分はすべて達成できた.今年度は,各項目の研究をより深化させるだけでなく,当初予定には掲げていなかった,固体物理学におけるチューリング・パターンの新しい舞台探索に向けた研究を開始し,順調に研究を進めている. 以上のことから,現在までの進捗状況は「概ね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
当初予定を超えた,より発展的な課題として,次の研究を進展させる: (イ)より微視的な模型からチューリング・パターンを得るために,分子動力学によるシミュレーションを行う.これまでで二次元系のコード開発はほぼ終了しているので,今後は三次元系への拡張を行う. (ロ)チューリング・パターンが生成された際の電子状態を計算し,量子効果を明らかにする. (ハ)固体物理学におけるチューリング・パターンの新しい舞台として,(i) 第一種超伝導体の中間状態,(ii) ビスマス骸晶の結晶成長,を取り上げ,現象論に基づく有効理論を構築する.特に(ii) では,静的なパターンの他に動的なパターンが現れる可能性を解析的・数値的の両面から探索する.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はコロナ禍のため,自由に出張ができず,次年度使用額が生じた. 次年度では,コロナ禍が収束すれば,積極的に成果報告や今後の展開の打ち合わせのための出張を実施する.
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