研究課題
ノーダルリング半金属候補物質CaAgPの、様々な元素を置換した単結晶試料の合成に成功した。これらの単結晶試料を用いた、最低温度0.1 Kの電気抵抗率の測定により、最高で1.5 Kにおいてゼロ電気抵抗を示すことを見出した。この電気抵抗の減少は、磁場を印加することにより低温側にシフトするため、超伝導転移である可能性が高い。今後、この超伝導転移のバルク性を検証する必要がある。ゼロ抵抗を示す試料では、低磁場においてホール抵抗の符号が反転する振る舞いを示し、CaAgPの単結晶試料に普遍的に存在する正孔キャリアに加えて、非常に高い移動度をもつ電子キャリアが存在することが明らかになった。磁気抵抗も同様の磁場領域において特徴的な急激な増大を示すため、両者は関連している可能性が高い。今後、電子キャリアの起源と、超伝導転移の関係について明らかにしたい。また、空間反転対称性が破れた立方晶の結晶構造をもつPt化合物、PtSbSとBaPtPの焼結体試料が、それぞれ0.15 K、0.20 Kにおいて超伝導転移することを発見した。このうちPtSbSについては、磁化測定により大きな反磁性が観測されており、バルク超伝導であることを確かめた。PtSbSはネスティングの強いホールポケットを含む特徴的な形状のフェルミ面をもつこと、BaPtPでは空間反転対称性が破れていることによるバンド分裂がかなり大きいことが電子状態計算により明らかにされた。今後、これらの特徴が、空間反転対称性が破れた立方晶の結晶構造をとることと関連して、超伝導を含む電子物性においてどのように表れているのかを解明することが期待される。
2: おおむね順調に進展している
令和元年度に、ノーダルリング半金属候補物質CaAgPの、系統的に化学置換した単結晶試料の合成に成功し、これを用いて超伝導転移を発見することができた。本研究課題が目的とする、ノーダルリング半金属におけるトポロジカル超伝導の発見に向けて研究が進展していることを示す。今後、見出した超伝導転移がトポロジカル超伝導であるかどうかを検証する。また、これに付随して見出された高移動度の電子キャリアの起源が、ノーダルリング半金属におけるトポロジカルな効果に起因している可能性もある。今後、この発現機構についても解明していきたい。PtSbSやBaPtPはノーダルリング半金属の候補物質ではないが、立方晶で反転対称性が破れた結晶構造をもつ点で特徴的である。非従来型超伝導が実現している可能性がある。例えば、カイラル超伝導が実現すれば、そのエッジ状態にはトポロジカルな効果の発現が期待される。このように、本研究課題は目的であるトポロジカル超伝導の実現に向けて順調に進捗していると考えられるため、概ね順調に進展していると判断した。
CaAgPについては、見出した超伝導転移がトポロジカル超伝導であるかどうか検証する必要がある。特に、表面状態が超伝導を担う場合には、バルク超伝導として観測されない可能性があるため、表面敏感な方法を組み合わせることが重要である。協力者との共同研究により、トンネル分光、STM、磁化、比熱測定など、各種物性測定を行うことにより、本物質系の超伝導の素性を解明する。PtSbSとBaPtPについては、超伝導相の性質を解明するため、単結晶試料の合成が必要である。気相輸送法やフラックス法により、これらの物質の単結晶試料を合成する。得られた単結晶試料を用いて、超伝導の異方性などを解明する。CaAgP以外の、ノーダルリング半金属の新物質開拓を行う。第一原理計算データベースを駆使することで有望な物質を選定、単結晶試料を合成し、物性測定を行う。得られたノーダルリング半金属候補物質に対し、CaAgPの場合と同様に元素置換によるキャリアドープを行い、トポロジカル超伝導の発現を目指す。
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JPS Conference Proceedings
巻: 29 ページ: 011001(1-6)
10.7566/JPSCP.29.011001
Journal of the Physical Society of Japan
巻: 88 ページ: 093709(1-4)
10.7566/JPSJ.88.093709