ノーダルリング半金属候補物質CaAgPの、様々な元素を置換した単結晶を合成し、これらの単結晶を用いた最低温度0.1 Kの電気抵抗測定を行った。その結果、Pdを置換した試料が、最高で1.5 Kにおいて超伝導転移によるゼロ電気抵抗を示すことを見出した。X線分析顕微鏡による化学分析により、本試料においてわずかだが確かにPdが含まれることを明らかにした。Pd置換した単結晶では、CaAgPの単結晶試料に共通に存在する正孔キャリアに加えて、非常に高い移動度をもつ電子キャリアが存在する。同様の振る舞いが、Pt置換やS置換試料においても現れた。今後、化学置換、常伝導相の電子物性、超伝導発現の関係性を明らかにしたい。また、接合を用いた実験など、何らかの表面敏感な実験を行うことにより、トポロジカル超伝導が実現しているかどうかも解明を目指す。 また、一次元性の強い結晶構造をもつ遷移金属テルル化物Nb2Pd3Te5および化学置換したTa2Pd3Te5がバルク超伝導体であることを発見した。Nb2Pd3Te5は新物質であり、Ta2Pd3Te5と同じ結晶構造をもつ。焼結体試料を用いた電気抵抗、磁化、比熱測定により、超伝導転移温度Tc = 3.3 Kのバルク超伝導を示すことが明らかになった。一方、Ta2Pd3Te5は無置換の場合には非金属的な電気伝導を示すが、TaサイトへのTiまたはW置換により、Tc = 2-4 Kの超伝導を示すことを電気抵抗率および磁化測定により明らかにした。両物質は同じ結晶構造をもち、等電子物質であるにも関わらず、対照的な電気伝導性を示したことは興味深い。今後、電子状態計算などを用いてその原因を明らかにしたい。また、Nb2Pd3Te5およびTa2Pd3Te5は、励起子絶縁体候補Ta2NiSe5と類似した結晶構造と電子状態をもつため、励起子の物理の観点からも注目される。
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