研究課題/領域番号 |
19K21847
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
佐藤 憲昭 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (30170773)
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研究分担者 |
壁谷 典幸 東北大学, 理学研究科, 助教 (70633642)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 準結晶 / 超伝導 / 電気伝導 |
研究実績の概要 |
Al-Zn-Mg準結晶で見いだされた超伝導(フラクタル超伝導)の特性解明、新超伝導準結晶の探索、および準結晶の常伝導特性の解明が本研究課題の主要目的である。 (1)超伝導発現機構解明のため同位体効果実験を目指したが、同位元素の価格が本研究予算を大幅に上回るため、実現には至っていない。 (2)Al-Zn-Mg準結晶の超伝導転移温度は50mKと極めて低いため、実験が難しい。そこで、(より高い転移温度を持つ)新たな超伝導準結晶の探索を行った。Hf元素を含む準結晶の電気抵抗の温度依存性を測定した結果、急峻な抵抗減少が観測されたものの零抵抗には至らなかった。現時点では、不純物相によるものと考えている。一方、近似結晶に関しては、Al-Zn-Mg 1/1-1/1-2/1近似結晶が100mK以下において超伝導の兆候を示した。また、Ce系近似結晶(Ag-In-Ceおよびその希釈系)の超伝導を探索したが、成功には至っていない。但し、副産物として、スピングラスの量子臨界現象を発見した。 (3)Zn-Sc系等の多様な準結晶の電気抵抗の温度依存性を詳しく調べた結果、高品質準結晶試料の電気抵抗の大きさは不良金属程度であること、およびその温度依存性は数十ケルビンを境に(べき乗則の)冪を変えることを見出した。また、試料の不均一性による効果を分離するため、微小端子間距離での測定を行い、高温域の冪乗則が端子間距離に依存しないことを見出した。これらの結果は、準結晶の電気抵抗の本質的温度依存性が定説とは異なることを示唆している。さらに、上記1/1-1/1-2/1近似結晶の電気抵抗は、1/1近似結晶と2/1近似結晶の丁度中間にあることを見出した。これは、(準結晶に対する)近似度と電気抵抗の温度依存性との間に強い相関があることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最大の研究目的であるフラクタル超伝導の解明には至っていないものの、新たな超伝導近似結晶(Al-Zn-Mg1/1-1/1-2/1近似結晶)を発見したことは、実験開始当初には予想していなかった大きな成果である。また、準結晶超伝導の特性を明らかにするうえで、常伝導特性の解明も重要である。上記近似結晶の(極低温域を含めた)電気抵抗の測定結果(1/1近似結晶と2/1近似結晶の中間的様相を示すこと)は、電気抵抗の温度依存性と準周期性との相関を明らかにするうえで重要なヒントになると期待される。これらを総合し、上記のように判断した。
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今後の研究の推進方策 |
上記新規近似結晶(Al-Zn-Mg1/1-1/1-2/1近似結晶)の超伝導がバルクであることを明らかにすることが最も重要な課題である。一方、多種多様な準結晶の物性を統一的に理解するため、絶対零度における電気伝導度と電子比熱係数の相関の有無を調べてきた。これまでの結果を見る限り、(非線形な)相関関係が存在すると期待される。これを確実なものにするため、さらに多種の準結晶についてデータの蓄積を図る予定である。また、限られた時間と予算の範囲ではかなりの困難が予想されるが、新規の超伝導準結晶の探索も引き続き進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年3月に開催予定の日本物理学会がコロナウイルス症候群のため中止となり、予定していた旅費の支出がなくなったため。(ただし、上記成果報告に記載のように、発表は完了したものとみなされている。)繰り越し額は少ないため、次年度の使用に当たっては、特に問題はないと考えている。
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