本研究課題の目標は、Al-Mg-Zn系準結晶で見いだされた「フラクタル超伝導」の特性(超伝導発現機構や対称性等)を明らかにすることである。本年度(最終年度)は、(1)超伝導を示す新規の準結晶あるいは近似結晶の探索、(2)常伝導状態における電気抵抗の温度依存性(温度係数の正負)と近似度との相関の解明を目指して研究を行った。それぞれに関する成果は以下のようである。 (1)Al-Mg-Zn系以外の超伝導準結晶を発見するには至らなかったが、(前年度に見出した)2/1-1/1-1/1近似結晶の超伝導の物性研究(比熱や磁化率の温度依存性の計測)を進めた。その結果、超伝導がバルク的であることを明らかにした。しかし、転移に伴う(比熱等の)異常はブロードであり、その起源解明が残されている。また、2/1-1/1-1/1近似結晶の超伝導転移温度が他の近似結晶から期待されるものと異なっていることを見出したが、その起因の解明も今後の課題として残されている。 (2)前年度までの研究によれば、常伝導状態において、近似度が上がるにつれ、電気抵抗の温度依存性は準結晶に近づいていく。本研究で見出した2/1-1/1-1/1近似結晶の常伝導状態における電気抵抗も、当初の予想通り、1/1および2/1近似結晶の中間に位置するものであった。これにより、「電気抵抗の温度依存性は、近似度が上がるにつれ準結晶に近づいていく」との相関がより明確に示された。 本研究課題の最大の目標は、超伝導発現機構の解明である。同位体効果の実験は、予算の制約もあって遂行できなかった。一方、上に示したように、周期結晶である近似結晶も準結晶と同様の超伝導性を示すことから、準結晶特有のメカニズムではなさそうである。近似結晶と準結晶の超伝導性の相違を詳細に検討していくことが今後の課題として残された。
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