本計画では、赤外線LEDで細胞を操作することを目的として、近赤外光で駆動するチャネルロドプシンの創製を目指している。2019年度には、長波長シフトしたチャネルロドプシンのバリアントであるChrimsonRやReaChRに共役二重結合系を延長したレチナールアナログを発色団として導入することで、天然に存在するチャネルロドプシンよりも長波長シフトしたチャネルロドプシンを創生することを試みた。2020年度は、効率よく色素が生成したReaChRアナログの光反応サイクルを、時分割紫外可視分光によって詳細に解析し、ReaChRアナログの中にイオン輸送が可能であると期待されるものを見出すことができた。2021年度は電気生理学的手法によって、細胞の膜電位の変化を光で誘導できるかを検討した。 HEK293T細胞にReaChR遺伝子と蛍光蛋白質であるVenus 遺伝子とを組み込んだプラスミドを導入し、共役二重結合系を延長したレチナールアナログを加えてReaChR アナログを生成させた。Venusの蛍光をマーカーとしてプラスミドが導入された細胞を選択し、光照射によって生じる電流をホールセルパッチクランプ法で測定した。その結果、光電流の大きさはレチナールアナログの種類によって異なることがわかった。さまざまな波長の光に対する光電流を測定し、作用スペクトルを通常のA1レチナールを発色団とするReaChRの吸収スペクトルと比較したところ、13メチル基とシッフ塩基結合との間に二重結合を追加した場合に作用スペクトルの長波長シフトが見られた。2020年度の研究により、他のレチナールアナログの光反応効率が著しく低いのに対し、このレチナールアナログは通常のReaChRと同様の光反応効率を示すことがわかっている。そのため、中間体の生成効率がイオン輸送効率を制御すると考えられた。
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