第二高調波発生をはじめとする非線形光学過程は、広く科学分野で利用されている。その代表例は、赤外光から可視光への波長変換、生体組織の観測のための二光子顕微鏡、グラフェンや単一原子層物質で注目される高次高調波発生などである。非線形光学効果は入射光の強度に対してべき乗の強い依存性を示すため、一般論からいうと、その効果を顕在化させるには高強度の光が必要である。そのため、非線形分光には尖頭値の大きな超短パルス光(広いエネルギー分布を持つ)を用いるのが常識であり、マイクロ~ナノ電子ボルトという超高精度測定が必要となる半導体の精密分光に適用されることはこれまでなかった。 本研究では、大型の超短パルスレーザー装置に代え、汎用性の高い擬似定常(高繰り返しパルス)の白色コヒーレント光源を精密分光に用いる。非線形光学信号を超高精度でスペクトル分解するというこれまでの常識を大きく転換する発想にもとづき、革新的な非線形分光手法を確立することに挑戦する。本研究により、従来手法に比して格段の分解能の向上と光学禁制状態の可視化が見込まれ、光励起状態の理解における新たなブレークスルーが期待できる。 本年度は、モデル物質として提案した半導体Cu2Oの青・紫色励起子について詳細な実験を進め、広帯域な近赤外光を入射して得られる励起子共鳴和周波スペクトルの発生機構を解明した。和周波スペクトルは位相整合条件の影響を受けることなく、形状解析から励起子ポラリトンの分散を実験的に導出することが可能であることを実際に示した。さらに、半導体単一原子層薄膜を対象とした同様の和周波スペクトルにおいて1光子遷移禁性の暗励起子状態にアクセスできることを実証し、低次元励起子の共鳴エネルギーや緩和機構に関する詳細な解析を行った。
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