研究課題
本研究では、非共線的な磁気秩序を有する新規ハニカム磁性体の開拓とその電気磁気効果の解明を目指す。まず本年度は、主な研究対象であるAMn2X2 (A=Sr, Ca, B=Bi, Sb) 系磁性体の合成に取り組んだ。真空フラックス法を中心に対象物質の合成の可否を調べ、可能な場合にはその結晶サイズと品質の最適化について検討した。さらに得られた結晶への応力印加に向け、本年度は最も簡便なピエゾ素子の側面に試料を貼り付ける手法の立ち上げを行った。直流電源をパソコンで制御し、ピエゾ素子をプログラム動作できる測定環境を構築した。これにより、0.1パーセント以下の応力下で誘電率や抵抗率を超電導マグネット内で測定できるようになった。さらに外部応力に加え、回転磁場下での電気磁気効果の測定を目指し、現存の超電導マグネットで使用可能な回転プローブの設計を行った。必要な性能を精査し、主要部分の仕様を決定した。また当初の計画に加え、他の122系磁性体の合成も積極的に行った。例えば、EuM2X2 (M=In, Cd. X=As, Sb) では、Eu層が二次元三角格子を形成している上、結晶構造や磁気構造が他の構成元素の種類に敏感であることを見出した。Mサイトを磁性元素で置換することでハニカム磁性体となるものもあるため、Eu層の磁性と複合した磁気状態を実現できると期待される。
2: おおむね順調に進展している
現在までの研究進捗は、(1)外部制御に関する内容と(2)物質開発に関する内容に大別される。(1)外部制御に関して、本年度では最も簡便な応力印加デバイスを予定通り立ち上げることができた。現在、ピエゾ素子を複数組み合わせることで、さらに大きな応力を印加できるデバイスの立ち上げを検討している。一方、回転プローブの制作では、本年度終盤に設計が終わったため、現在は実際の工作を迅速に進めるために外注を含めた検討を行っている。(2)物質開発に関して、基軸となるAMn2X2系の合成をほぼ予定通り進めることができた。現在、元素置換による結晶構造の変化を利用した磁気状態の転換を目指している。また、EuM2X2系などのEu層の磁性と複合したハニカム磁性体の開拓にも着手した。
(1)まずは基本物質AMn2X2系を対象に、これまでに立ち上げた応力印加デバイスを用いて磁気輸送・誘電特性を測定し、反強磁性状態の変化の有無を調べる。伝導性が良い場合には、元素置換によりキャリア濃度を減少させることも検討する。磁気状態の転換には、さらに高い応力が必要となる可能性もあるため、新しい応力印加デバイスの立ち上げも並行して行う。この立ち上げに関しては、専門家がいるドイツのマックスプランク研究所との共同研究も検討する。さらに、回転プローブの制作も完了させ、非共線的な磁気状態へ転換が示唆されたサンプルを対象に、電気磁気効果の磁場方位依存性を解明する。(2)応力がない常圧状態でも、非共線的な磁気秩序を有するハニカム磁性体の合成を目指し、AMn2X2系を基軸とした元素置換を行う。従来の真空フラックス法では合成できない場合は、高圧合成も試みる。またEuM2X2系においても、Mサイトに磁性元素を含有する新規ハニカム磁性体に加え、Mサイトに非磁性元素を含有する物質の合成も行う。特に後者は最近、磁性トポロジカル絶縁体として注目され、新奇トポロジカル電気磁気効果が理論的に予想されているため、その実験的検証も試みる。
当初の計画では、超電導マグネット用の回転プローブの工作を外注し、本年度内に納入する予定であったが、仕様の決定に時間がかかり間に合わなかった。次年度に納入する予定である。
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