研究課題
本研究は,100GPaを超える超高圧を発生できるが,内径0.5mm以下と極端に小さい試料空間のため,これまでミクロスコピックな電子状態情報を得られる電子スピン共鳴(ESR)測定が従来手法で不可能であったダイヤモンドアンビル圧力セルにおけるESR測定を,新規測定法開発で可能にすることを目的とする。次に,ダイヤモンド窒素-空孔中心(NV-センター)を用いた光検出磁気共鳴(ODMR)の原理から,本研究の計画を説明する。NV-センターは,S=1スピン三重項基底状態を取り,基底状態から励起状態へ6 37nm以下の波長のレーザーで励起でき,637nmのゼロフォノン線からフォノンサイドバンドにまたがった600~800nmの範囲で蛍光が観測される 。そして,光励起サイクルを繰り返すことで,室温でもスピン状態をms=0に初期化可能で,ms=0とms=±1状態間で電子スピン共鳴(ESR)励起を行うと,それぞれ状態への蛍光強度が異なるので,蛍光強度の変化としてESR信号観測が可能である。これはODMRを用いたESR観測が,従来のESR観測に比べ10桁高い感度を持つので,単一NV-センターの観測が可能である。測定は圧力セルダイヤモンド表面に貼った微小試料の外部磁場下テラヘルツESRによるスピン状態変化を,近傍のNV-センターが有効磁場変化としてNV-センターのms=±1状態のゼーマン分裂変化として受け取り,ODMRの蛍光強度変化として高感度テラヘルツESRとして 観測されるという原理である。そこで,初年度は超高圧発生に用いられている一般的な圧力セルダイヤモンドにおいて,その表面NV-センター濃度とその分布の把握をしようとしたが,そのようなデータは存在しないことが明らかとなった。そこで,2年目は圧力セルダイヤモンドの表面NV-センター濃度とその分布を,計測可能な既存の装置の探索からスタートした。
3: やや遅れている
超高圧を発生できるダイヤモンドアンビルセルは,2つのダイヤモンドアンビルを対向させ,その間に内径0.5mm以下の穴をあけたガスケットをはさむ。そして,穴に圧力伝達媒体と試料を入れ,2つのダイヤモンドアンビルを押し付け合い圧力を発生する。この穴が微小なので,超高圧が発生するが,試料も微小になり,通常のESRでは観測が不可能であるため,ダイヤモンドアンビル表面のNV-センターを超高感度のODMRで測定し,ESR観測を可能にするのが本研究のねらいである。ダイヤモンドアンビルセルは,専門業者が販売しているので,そのダイヤモンドアンビル表面のNV-センター濃度とその分布の把握を試みた。そこで,専門業者がブースを出展していて調査が可能な第60回高圧討論会(2019年10月23-25日,札幌市・かでる2・7 北海道立道民活動センター)に本科研費で出席し,DIAX株式会社など3社について調査した。その結果,どの業社も商品のNV-センター濃度とその分布を把握しておらず,貸し出しを受けて購入前に,我々で測定や分析をしなければいけないことが明らかとなった。その後,2020年になると新型コロナウイルス肺炎の蔓延により,学会は全てオンライン開催となり,前述のような業者調査は不可能となった.そこで,利用可能なNV-センターの測定装置を検討した。その結果,大阪市立大学理学研究科などにダイヤモンドのNV-センターのODMR測定をしている研究者がわかり,現地調査を予定していたが,新型コロナウイルス肺炎の蔓延により,出張調査ができなくなった。一般的なNV-センターのODMR測定では,2次元的薄膜ダイヤモンドを用いているので,3次元的なダイヤモンドアンビルセルの計測方法に関しては,綿密な現地調査と議論が不可欠であり,出張制限もあいまって研究遂行に大きな支障がでている。
新型コロナウイルス肺炎の蔓延が収まらないと,現地における装置に関する綿密な出張調査や,計測評価が困難である。しかし,圧力発生用のダイヤモンドアンビルのNV-センター濃度とその分布の把握が最優先課題である状況に変わりはない。そこで,新型コロナウイルス肺炎の状況の改善が短期ではあまり見込めないので,大阪市立大学理学研究科の研究者とZoomなど昨年蓄積してきたオンライン手法を駆使して,現地調査に匹敵する情報収集を行う。調査で明らかにすべき課題はいくつかある。ひとつは,一般的にNV-センターのODMR測定には,高品質の薄膜ダイヤモンドを用いることが多いので,この研究で測定したい数mm角のダイヤモンドアンビルをセットできる装置配置になっているのかが課題である。また,その状況でダイヤモンドアンビルの表面にピントをあわせる十分な焦点深度をもっているか,2次元スキャン領域が十分であるかなども検討課題である。ただ,NV-センターのODMR測定可能な装置を用いた,ダイヤモンドアンビルのNV-センター濃度とその分布の分析は最終的に必須であるので,機会を捉えてそれを行う。そして,十分な評価を得たダイヤモンドアンビルを購入する。また,薄膜ダイヤモンドを用いたODMRによる磁気共鳴測定には,かなり高い濃度のNV-センターが必要で,十分な濃度のダイヤモンドアンビルがみつからない場合,化学的に導入することができる関連研究者はオンライン学会発表などを通じて明らかになってきたので,それも検討する。そして,ODMR装置の共同研究を確立し,ダイヤモンドアンビル上の標準試料DPPHのESR観測にすすむ予定である。
購入予定であったダイヤモンドアンビル表面のNVセンター濃度とその分布を業者が把握しておらず,申請者が購入前に測定および分析をしなければならないことがわかった。さらに,それを測定するODMR装置の現地調査を行う予定であったが,新型コロナウイルス肺炎の蔓延により,出張調査ができなくなり分析ができず,ダイヤモンドアンビルの購入が繰り越しとなり,さらに学会なども全てオンラインとなり,出張旅費も大きく繰り越しとなった。この結果を受けて,本年度予算は,対のダイヤモンドアンビルの購入,その分析のためのセットアップ部品,ダイヤモンドアンビル評価のためのテラヘルツESR測定用寒剤,分析や,可能なら学会・研究会などの出張旅費などに使用する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件)
Physical Review B
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