研究課題/領域番号 |
19K21857
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
山中 雅則 日本大学, 理工学部, 教授 (20307698)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | エネルギー準位統計 / 密度汎関数法 / ランダム行列理論 / 量子分子進化 |
研究実績の概要 |
トリペプチドに関する分子動力学と量子化学計算を実行し、電子状態の網羅的な解析を行なった。特にエネルギー準位統計を定量的に解析した。水媒質中のトリペプチドの立体構造を分子動力学法によりサンプリングを行い、熱運動等の動的情報を含む立体構造のライブラリを作成した。これらの異なる立体構造毎に第一原理的な量子化学計算を実行し、分子軌道とそのエネルギーを数値的に計算した。これらの情報からアンフォールディングされたエネルギー間隔を計算し、個々のトリペプチドについて準位統計を求めた。計算が終了したトリペプチドは、分子量の小さい方から約200種類である。これらの物質についても、最高非占有軌道以上のエネルギーについては臨界準位統計となり、最低占有軌道以下のエネルギーについては、アミノ酸単体やジペプチドよりも統計分布が滑らかになるものの、依然として分子種に大きく依存する準位統計を得た。これらの計算が終了したトリペプチドの範囲内ではガウス型直交集団に近い臨界準位統計であることが結論された。アミノ酸、ジペプチドの大半、低分子量のトリペプチドの計算には関数系cc-pVQZを用いていたが、トリペプチドよりも分子量の大きいオリゴペプチドでは計算ができなくなる。計算コストのかからない関数系を網羅的に試すことにより、準位統計の関数系の依存性を検討した。高分子のエネルギー準位統計の比較対象として、炭化水素鎖についても上記と全く同じ手順によりエネルギー準位統計を計算した。炭化水素鎖の伸長とともに、準位統計がガウス型直交集団に近い臨界統計からポアソン統計に近い臨界統計へ漸近するという結果を得た。この振る舞いは、計算が終了したオリゴペプチドとは異なっている。オリゴペプチドについても残基数の増加とともに統計性が変化する可能性が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ジペプチドまでは非常に高精度の基底関数を使用していたが、トリペプチド以上では分子量が大きいために、精度を落としても基底関数を計算コストのかからない関数系を用いる必要があり、試験計算と基底関数の精度との兼ね合いの検討が必要となったため。また、新型コロナウイルス感染症の世界的パンデミックにより、研究発表等の機会が少なくなったため。
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今後の研究の推進方策 |
未計算のトリペプチドについて基底関数を変更して計算を完了する。対照計算として、炭化水素鎖の他に、アルコールやカルボン酸についても計算を行う。トリペプチドよりも残基数の多いオリゴペプチドについては、基底関数の変更を行ったとしても網羅的に計算することが極めて難しいと考えられらるために、自然界に存在する物質と1次構造をランダムサンプリングした物質の2種類のグループについて計算し、蛋白質の分子進化について進化系統樹の骨格の構成を考察する。トリペプチドの計算が終了次第これらについても論文発表を行う。計算資源については新規導入の検討を行うなどの方法により、当初の研究計画を遂行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大発生以降、全ての学会がオンライン開催となり、研究成果の発表用の旅費を全く支出することができなかった。当該年度後半はかなり緩和されたものの過去に全く支出できなかった予算が発生したため。最終年度は、論文の英文校正料、論文投稿料、学会発表のための旅費として使用する。
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