研究課題/領域番号 |
19K21862
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
渡邉 昇 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (90312660)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
|
キーワード | 原子・分子物理 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,電子‐分子衝突で生成する高活性な中性解離フラグメントの状態分析を行う新規測定法を開発することにある。これまで開発を進めてきた電子衝撃分光技術と光化学反応研究で発展を遂げてきた多光子イオン化法を組み合わせ、電子衝突で生成する中性ラジカル種の状態分析を行う。 この目的の達成に向け、本年度は反応で生じるイオンの運動量イメージング法の高精度化を図った。既存の測定配置において、電子衝撃イオン化で生じた分子イオンの後続緩和過程で生じる解離イオンを対象とした実験を行っている。これまで窒素分子や酸素分子などの核二原子分子を対象に進めてきた散乱電子と解離イオンとの同時計測実験を、異核二原子分子である一酸化炭素や、二酸化炭素及び六フッ化硫黄などの基本的な多原子分子にまで対象を広げるとともに、イオン引き込み等で用いる複数のパルス電圧の波形や電圧値および印加タイミングの最適化を試みた。 なかでもCOを対象とした非弾性散乱電子と解離イオンとの同時計測実験により、移行運動量ベクトルが炭素側を向くか酸素側を向くかでイオン化確率が異なる前方後方異方性を初めて捉えた。この異方性の発現にはCO分子の非反転対称性のみでなく、電離電子の波動関数が無限遠方で満たす境界条件が重要な役割を果たすことを見出している。以上の結果は電子-分子衝突物理の発展へ寄与するとともに、分子座標系における電子散乱分光実験を利用した分子軌道イメージングの実現に向けた基礎的知見を与えるものであり、結果を論文として報告している。 さらに、電子衝撃イオン化で生じる解離イオンを対象とした上記実験の結果に基づき、中性解離フラグメントの運動量イメージングを行うために必要となる装置改造の準備と、最適な実験条件の検討を進めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予備実験の結果に基づく実験条件の精査により、中性解離フラグメントのイオン化に用いるレーザーの波長について再検討する必要が生じたため。
|
今後の研究の推進方策 |
電子‐分子衝突によって生成する高活性な中性解離フラグメントの状態分析の実現に向け、令和2年度はこれまでに開発を進めてきた解離イオン同時計測電子エネルギー損失分光装置に、レーザー光を導入する。これにより、パルス電子線照射で励起された分子の後続緩和で生成する種々の中性ラジカルをイオン化し、画像観測型イオン分析器での検出を可能にすることを目指す。昨年度に検討を進めてきた装置改造を行い、大気側から真空槽内の反応領域までレーザー光を導く。さらに、電子衝撃イオン化で生じる解離イオン種を対象として令和1年度に行った実験に基づき、レーザー導入条件下においてイオン引き込み等で用いる複数電圧パルスの電圧値および印加タイミングの最適化を行い、中性ラジカルに対する運動量イメージングの高精度化を図る。令和3年度には本手法に基づく測定法を確立し、主要なエッチングガスを対象とした実験を系統的に進める。さらに、これら実験より得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予備実験の結果に基づく実験条件の精査により、中性解離フラグメントのイオン化に用いるレーザーの波長について再検討する必要が生じたことで、導入予定のレーザーの購入が遅れたため。
|