実験条件の詳細な検討に基づき、電子衝突で生成した中性化学種の光イオン化へ利用する半導体レーザーの選定・購入を行い、それを用いた測定スキームの開発を進めた。これと並行して、電子衝突による結合切断の研究対象であるSF6とCF4に対して、散乱電子と解離イオンの同時計測実験を行い、イオンの運動エネルギー分布を精査することで、親分子イオンの解離機構を明らかにしている。ここで蓄積した知見から、イオン化用レーザー光を電子-イオン同時計測装置に導入することで、中性解離種の生成メカニズムを解明できる見通しが得られた。これら実験的な取り組みに加え、理論からのアプローチとして、ハイドロフルオロカーボンであるフルオロメタン、ジフルオロメタンおよびトリフルオロメタンに対し、一般化振動子強度(GOS)の理論計算を行った。これら分子は冷凍機の冷媒ガスや半導体微細加工におけるエッチングガスとして産業界で広く用いられており、大気中に放出されたガスの環境への影響や、プラズマ中での電子衝突で誘起される励起・解離過程が興味を集めている。しかし、上層大気中における紫外・真空紫外光吸収やプラズマ中での電子非弾性散乱で生じる励起状態については、未解明な点が多い。電子損失エネルギー分光実験より得られるGOSは、個々の電子励起状態を反映した特徴的な移行運動量依存性を示す。この性質に着目し、我々の開発した理論コードによるGOSの高精度計算を行い、報告されている実験値と比較することで電子励起バンドの曖昧さない帰属を行った。計算には分子振動の影響を取り込み、それが電子励起確率に与える影響も調べている。その結果、幾つかの励起バンドについて、帰属の修正を行うとともに、上層大気中での化学結合切断にCH伸縮振動が大きく影響することを突き止めた。これらの結果は、論文としてまとめ、報告している。
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