研究課題
ブラックホールから放射があれば、ブラックホールは最終的に蒸発して無くなってしまうと考えられている。しかし、これを宇宙で直接観測することは難しく、実証困難であった。超高強度レーザーにより励起される航跡場(電子プラズマ波)を、プラズマの密度勾配を用いて加速し、加速ミラーとしてブラックホールの地平線を模擬する実験が提案されている。本研究では、数値シミュレーションを用いた航跡場の加速条件の最適化と超高強度レーザーを用いた原理実証を目的とする。航跡場の位相速度は、レーザーの群速度と等しく、プラズマ密度とレーザー強度の関数になっている。理論的には、プラズマの密度とレーザー強度により航跡場の位相速度が決定されるが、超高強度レーザーを用いるとプラズマの状態が著しく変化し、レーザーにも反作用として働き、レーザーパルスそのものも時間空間的に変化する。レーザーの集光による強度の変化に加え、プラズマとの非線形相互作用である自己収縮など、様々な非線形効果によりレザー強度とプラズマ密度が変化する。非一様プラズマ中の超高強度レーザーによる航跡場の加速を、数値シミュレーションにより最適化し、実験的に実証する。2020年度は、コロナ禍の中、海外での実験が制限されているため、引き続き国内最高強度のJ-KARENレーザーを用い航跡場の時空間発展を捉える計測器の開発を行った。初年度は、レーザー光のプラズマによる散乱(トムソン散乱)のイメージングを行なったが、今年度はこれに多方向からの分光計測を用い、プラズマの空間分布に加えて、温度、密度、速度の計測を行った。これまでのトムソン散乱の理論には、線形、定常、平衡という近似が入っており、高強度レーザー生成プラズマにはそのまま適用できず、実験データはその限界を示している。今後データ解析を進めと同時に、非線形、非定常、非平衡系における理論を展開する。
2: おおむね順調に進展している
ほぼ光の速さで伝搬する航跡場を計測するには、高い時間分解を持つ計測器が必要である。台湾NCUの100TWレーザーファシリティではそれが可能であるが、コロナウィルスの影響で今年度も海外での実験は遂行できなかった。国内での研究は徐々に通常に戻りつつあり、シミュレーションと計測器開発は予定通りに進んでいる。延期されていたJ-KAREN実験についても遅れて実施され、有効なデータが得られている。現在得られている実験データとシミュレーションから、これまで広く使われてきている散乱理論では限界が見えており、新たな理論の展開を行なっている。
コロナウィルスのため依然として先行きが不透明であり、特に海外での実験は不確定性が大きい。ウェブミーティングを通して、台湾サイドの関係者と連絡を続け、渡航制限が解除されれば素早く共同実験を開始できるよう準備する。これまで得られた実験結果から、広く使われているトムソン散乱理論の限界と、新たな非線形、非定常、非平衡系における理論の必要性がはっきりしいる。今後は、これまで得られたデータとそれを補完するためのシミュレーションを行い、超高強度レーザーによるトムソン散乱理論を構築する。またこれまでの実験から、さらに高時空間分解の計測をすることが、新たな理論の検証にも必要であることがわかっている。時間分解については、台湾での実験が必要であるが、空間分解トムソン散乱スペクトル分光計測については国内でも可能であるため、状況に合わせ理論の展開とその検証を行なっていく。
新型コロナウィルスの影響で、予定していた国立台湾大学への渡航ができなかったため。渡航制限が解除され次第台湾での実験を遂行したいが、状況が改善されなければ理論・シミュレーションに重点を移し、国内での要素実験での検証を目指す。
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