研究課題/領域番号 |
19K21867
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
長嶋 泰之 東京理科大学, 理学部第二部物理学科, 教授 (60198322)
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研究分担者 |
永田 祐吾 東京理科大学, 理学部第二部物理学科, 助教 (30574115)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | ミュオン / 陽電子 / ミュオニウム / ポジトロニウム / 低温金属薄膜 / 最放出 / 超低速ミュオンビーム |
研究実績の概要 |
焼鈍した常温の金属に陽電子を入射すると、陽電子はバルク中で熱化して熱的に拡散し、一部は表面に到達する。多くの金属ではバルク中における陽電子のエネルギー準位が真空準位よりも高いため、表面近傍の陽電子は表面から再放出されることが知られている。またほとんどの金属表面で、このような陽電子の一部はポジトロニウムを生成し真空中に放出される。このようにして再放出される陽電子は加速されて、低速陽電子ビームとして種々の実験に用いられている。ポジトロニウムもポジトロニウムのレーザー分光等の研究に用いられている。 これに対し正ミュオンを金属に入射した場合には金属中を効率よく拡散することはなく、格子間に束縛される。同じレプトンでも、陽電子と正ミュオンでは金属中における振る舞いが大きく異なる。その理由は何だろうか。本研究課題ではこの解明のために、低温の金属中におけるミュオンの振る舞いを観測する。低温ではミュオンのドブロイ波長は格子間隔よりも長くなり、正ミュオンが粒子的ではなく、波として拡散していくことが期待できる。 本研究課題は、この考察に基づいて、ミュオンの再放出あるいはミュオニウムの放出を調べる研究である。この研究によってミュオンの再放出やミュオニウムの放出が起こることが見出されれば、今後の超低速ミュオンビーム生成法の一つとして利用できる可能性がある。 2019年度には、タングステン箔膜を10K以下まで冷却するためのクライオスタットを製作した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を遂行するためには、金属薄膜を冷却するクライオスタットと測定用チェンバー、測定装置が必要である。測定用チェンバーはすでに準備済みである。 2019年度には、金属箔膜を冷却するためのクライオスタットの設計・製作を行った。金属薄膜にはタングステンを用いることを想定している。必要なクライオスタットの条件は次のとおりである。(1)我々が所有するミュオン測定用のチェンバーに取り付けて使うことが可能であること。(2)金属薄膜試料を10K以下まで冷却することが可能であること。(3)薄膜表面から放出される正ミュオンを下流側に導けること。(4)冷却前に、チェンバー内で2000℃で焼鈍が可能であること。(5)10-8Pa程度の超高真空中で使用可能であること。 これらの条件を満たすために、液体ヘリウムによる冷却方式を採用することにした。薄膜の左右に薄膜の保持と冷却のための銅のブロックを設置し、上方のヘリウム溜から冷却を行う。一方焼鈍は、このブロックから薄膜試料に電流を流して通電過熱によって行うこととした。タングステン薄膜試料を2000℃まで加熱するために必要な電流値は最大で300Aである。また冷却装置には輻射シールドを設置するが、ミュオンの経路上には穴をあけてミュオンの輸送を妨げないようにした。 完成したクライオスタットは3月末に納入された。また、タングステン薄膜試料から放出されることが期待されるミュオンの軌道シミュレーションも行い、ミュオンの計測装置に関する検討も行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まずはクライオスタットの特性評価を行う。所定の特性が得られるかについて焼鈍テスト、冷却テストを行う。 その後、J-PARCの物質・生命科学実験施設(MLF)における共同利用実験で、正ミュオンを低温薄膜に入射する実験を進める。まずはタングステンを2000℃で1時間程度焼鈍し、常温に戻した後に液体ヘリウムで10K以下に冷却する。その後、正表面ミュオンビームを入射する。金属薄膜下流面から再放出されることが期待されるミュオンを電場で加速して、下流に設置するマイクロチャンネルプレートで検出して飛行時間を測定する。加速電圧を変えながら測定を行い、ミュオンが再放出しているかどうかを確認する。 更に、周囲にシンチレーション検出器を配置してミュオニウムの検出も行う。 また、金属薄膜表面に希ガス固体を生成し、その中でのミュオンの減速の様子も調べて、ミュオンの減速材としての有効性も調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に購入を予定していたパワーケーブルを、クライオスタットの完成を待って購入することに変更したため。3月末にクライオスタットが納入されたため、実際の装置を見ながらパワーケーブルの検討を行い、2020年度の早い時期に購入する。
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