研究課題/領域番号 |
19K21870
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
伊藤 篤史 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (10581051)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | ポテンシャル / 力場 / 分子動力学 / 二体衝突近似 / プラズマ物質相互作用 / プラズマ壁相互作用 / シミュレーション / 機械学習 |
研究実績の概要 |
プラズマと固体物質の相互作用では、入射イオンの高エネルギー衝突による弾き出しから、電子状態に由来した化学反応まで多岐にわたる現象が起こる。このような現象の解析には分子動力学(MD)や二体衝突近似(BCA)に代表される原子スケールのシミュレーションが利用されるが、電子状態に由来する原子間の相互作用を古典的なポテンシャル関数で代替したモデルが必要である。しかしながら、ポテンシャルモデルは限られた元素の組み合わせ向けにしか整備されていないのが現状である。本研究では、出来る限り多くの元素を取り扱える汎用的なポテンシャルモデルの開発を行う。 本研究では、我々が開発した数式からポテンシャル関数の計算機コードを自動生成するメタコンパイラDAMAを利用して、機械学習と組み合わせることで汎用モデルを開発している。その時の教師データは、電子状態を量子力学的に計算する密度汎関数理論(DFT)計算である。 初年度は、まずDFT算出値の不確かさについて検証を行った。その結果、原子にもよるが、およそ1オングストローム以下の距離に近づくと、一般的な擬ポテンシャルを用いるDFTでは相互作用エネルギーを過小評価してしまうことを示した。これは10 eV程度以上の高エネルギー衝突に相当し、プラズマ-物質相互作用では頻繁に発生する事象である。よって、DFTだけを教師データとすることは適切でないとの結論に至った。 そこで、BCAの分野でZieglerらによって考案されたZBLポテンシャルモデルを見直した結果、高エネルギー極限(近距離極限)までのポテンシャル関数を解析的に導出することに成功した(ReGZポテンシャルモデル)。これはポテンシャルモデルにおいて最も大きな割合を占める二体項としても利用可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
近距離極限となる二原子間ポテンシャル(ReGZ)を解析的に導けることは、当初予想できなかった展開である。本分野において高エネルギー衝突をシミュレーションする際には、1985年以来ZBLポテンシャルモデルが使われてきた。ZBLポテンシャルモデルは全元素を扱えるとされているものの、フィッティングによって得られた関数である。今回の研究で見直しを行うと、現在のシミュレーションの要求に比べてかなり精度が粗いということも示された。 一方、本研究で解析的に導いたReGZポテンシャルモデルは数値解とも大変よく一致し精度も満足できるものである。さらに、およそ10000ある元素の組み合わせに対して、元素の種類である100程度のパラメータで記述できる簡便性も備えている。 特にBCA分野においてはZBLポテンシャルモデルを置き換えるモデルとして広く普及することが期待される。よって予想以上の進展があったものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
二原子間ポテンシャルを解析的に導けたので、これを二体項として利用する方向で研究を進めたい。二体項は最もエネルギー的に大きな割合を占める部分であり、多体ポテンシャルモデルにおいての骨格であると言える。ポテンシャルエネルギー全体に占める骨格となる二体項の割合が未知である場合、機械学習において二体項が小さく多体項が大きいといった不自然なモデルが生成されることをこれまでに経験している。この度、骨格となる二体項の割合が決まったことで、機械学習による最適化が多少楽になると予想される。 また、原子が近距離にある場合にDFTの算出結果のエラーが大きい問題に関しても、その部分が解析的に求まっているので、教師データから大胆に除いてしまうことができる。よって、近距離から中・遠距離までの原子配置で適切なモデルを生成できると期待できる。 加えて、開発したポテンシャルモデルの普及も重要な課題である。メタコンパイラのDAMAを適切なタイミングでWebサービス化するなどして広く利用してもらう形を整備したい。合わせて、BCAコードおよびMDコードを公開し、ポテンシャルと共に利用できる体制を整え、本分野の発展に貢献する。
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次年度使用額が生じた理由 |
先の報告通り、本年度は1985年来の二原子間ポテンシャルの解析解を理論的に導出することができたという大きな進展があった。一方で、解析解の導出及び証明には多くの時間が必要であり、研究計画を見直し情報収集に関する出張を多少制限した。その為、基金の特性を生かし、次年度へと予算を持ち越して有効活用することにした。 一方で、令和二年度もパンデミックの発生により出張制限など見直しが生じる。そこで、開発したツール群の普及促進費用として利用し、クラウドサービスやWebなどを通じた本分野への普及展開を積極的に行うようにする予定である。
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