プラズマと物質の相互作用を理解するためには、原子スケールの挙動を知ることが欠かせない。特に本分野では分子動力学(MD)、二体衝突近似(BCA)、動的モンテカルロ(KMC)といった方法が有用である。これらのシミュレーションに共通した不可欠な要素技術が、原子間相互作用ポテンシャルモデルの信頼性・再現性であり、現状ではモデルが十分に整備されておらず、元素を変えた解析というのが困難であった。本研究の目的はプラズマ物質相互作用シミュレーションに必要なポテンシャルモデルの開発を行う事である。 プラズマから入射される粒子のエネルギーレンジは10eVから100keV程度の比較的高エネルギー帯であり、これは材料用のMDで扱えるエネルギーレンジを超えている。高エネルギー入射を対象としたBCAでは高エネルギーレンジのモデルとしてトーマス-フェルミ(TF)型のポテンシャルを用いるが、現代において精度は十分でない。本研究にて、このような高エネルギーレンジでの衝突を精度良く扱える二原子間ポテンシャル(ReGZポテンシャルモデル)を解析的に導出することに成功した。今年度は理論的な細部の整備を進めた。 その中で、本ReGZポテンシャルモデルの枠組みを拡張することで、中性原子間だけでなく、イオンや負イオンと言った荷電粒子間の相互作用ポテンシャルも表現できることが分かった。 また、実際にBCAシミュレーションを実行するBDoGコードに、ReGZポテンシャルモデルを組み込む為のコード開発も行った。さらに、BDoGコードを用いて、炭素材料への水素原子入射の計算を実行し、従来のTF型の代表例であるZBLポテンシャルを用いた場合と本研究で開発したReGZポテンシャルを用いた場合とで比較した。その結果、スパッタリング収率に数倍の差が出ることが分かった。これは将来の核融合装置の内壁に対して問題提起となる。
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