レーザーブレイクダウンを引き起こす電子衝突電離に関与する電子は,バルクの平均的エネルギーを持つ電子ではなく,電離エネルギーを越える高エネルギーテールの電子である.理論およびシミュレーションモデルを用いてレーザー照射下での高エネルギーテール成分を持つ電子分布関数を決定することが,本研究の目的の一つである.しかし,モデルを検証するために実験的に電子分布関数を決定することは困難であるため,実験では分布関数から決定される電子なだれの増幅係数を指標にした. 実験的に電子なだれの増幅係数を正確に求めるためには,自然に存在する種電子数の影響を取り除く必要があると考え,ナノ秒YAGレーザーの光をガスチャンバー内に設置した電極間に集光する実験を行い,電極間に印加する電圧を制御することにより,印加電場によるドリフトで照射領域から電子を除去することで,電子なだれの増幅係数の絶対値評価を試みた.電子分布関数に対するボルツマン方程式の2項展開モデルから求まる電子増幅係数と電子移動度を用いたゼロ次元の電子増幅モデルを作成し,実験で得られた印加電圧を増加に伴うブレイクダウンに必要となるレーザーエネルギーが増大および飽和する結果を定性的に説明できることを示した. レーザー照射下での電子分布関数を電子がレーザー電場によって振動する系での原子ー電子弾性散乱および非弾性散乱として記述し,モンテカルロ法によりその散乱過程を計算することで,高エネルギーテール成分を持つ電子分布関数を決定することで,ボルツマン方程式の2項展開モデルからの結果と比較した. また,密度汎関数法による第一原理電子状態計算を用いて強結合状態プラズマにおける光吸収についても調べた.
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